リハビリテーション評価とICFとの関係
リハビリテーションでは、筋力や関節可動域、麻痺などの身体機能だけでなく、日常生活や社会参加、生活環境、本人の希望などを含めて対象者を総合的に評価することが重要です。
その際、対象者の状態を整理するための共通した枠組みとして活用できるのが、**ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health:国際生活機能分類)**です。
ICFは、WHO(世界保健機関)が2001年に採択した、人の健康状態や生活機能を捉えるための分類です。
リハビリテーション評価では、ICFの考え方を用いることで、
「身体のどこが悪いのか」だけではなく、「その人の生活に何が起きているのか」
という視点から対象者を捉えやすくなります。
ICFを構成する要素
ICFでは、人の生活機能を主に次の要素から捉えます。
- 健康状態
- 心身機能・身体構造
- 活動
- 参加
- 環境因子
- 個人因子
これらはそれぞれ独立して存在するのではなく、相互に影響し合うものとして考えます。
健康状態
対象となる疾患や外傷などです。
たとえば、
- 脳卒中
- 大腿骨近位部骨折
- パーキンソン病
- 変形性膝関節症
- 心不全
などが該当します。
ただし、同じ疾患であっても、その人の生活上の問題が同じになるとは限りません。
そのため、診断名だけでリハビリテーションの内容を決めるのではなく、その疾患が対象者の生活機能にどのような影響を与えているのかを評価する必要があります。
心身機能・身体構造
「心身機能」は、身体や精神の生理的・心理的な機能を表します。「身体構造」は、身体の解剖学的な部分を表します。
リハビリテーション評価では、
- 筋力
- 関節可動域
- 運動麻痺
- 筋緊張
- 感覚
- 疼痛
- バランス機能
- 認知機能
- 呼吸・循環機能
などが関連します。
ROM、MMT、Brunnstrom Recovery Stageなど、多くの検査・測定はこの領域を把握するために用いられます。
活動
活動とは、個人による課題や行為の遂行を意味します。
リハビリテーションでは、
- 寝返る
- 起き上がる
- 立ち上がる
- 移乗する
- 歩く
- 階段を昇降する
- 食事をする
- 更衣する
- トイレを使用する
- 入浴する
など、実際に「何ができるのか」という視点で評価します。
身体機能が低下していても、補助具や環境調整によって活動が可能になる場合があります。
反対に、身体機能が比較的保たれていても、認知機能や環境などの影響によって実際の生活では活動が制限されていることもあります。
参加
参加とは、生活・人生場面への関わりを意味します。
たとえば、
- 家庭内で役割を持つ
- 学校へ通う
- 仕事へ復帰する
- 買い物へ行く
- 趣味活動を行う
- 地域活動に参加する
- 友人と交流する
などが関連します。
リハビリテーションの最終的な目的を考えるうえでは、この「参加」の視点が非常に重要です。
「歩けるようになる」こと自体が最終目的ではなく、
歩けるようになることで、その人が何をしたいのか
まで考える必要があります。
たとえば、
歩行能力が向上する
↓
一人で外出できる
↓
近所のスーパーへ買い物に行ける
↓
これまでの生活や家庭での役割を取り戻す
というように、身体機能や活動の改善を、その人らしい生活や社会参加へつなげて考えていきます。
環境因子
環境因子とは、対象者を取り巻く物理的・社会的・人的な環境です。
たとえば、
- 自宅の段差や階段
- 手すりの有無
- 道路や公共交通機関
- 車椅子や歩行器などの福祉用具
- 家族からの支援
- 介護サービス
- 医療・福祉制度
- 職場や学校の環境
などがあります。
環境は、対象者の活動や参加を妨げる阻害因子になることもあれば、生活を助ける促進因子になることもあります。
たとえば、下肢筋力が低下している人でも、手すりを設置することで一人で階段を昇降できるようになる可能性があります。
つまり、リハビリテーションでは本人の身体機能だけを変えるのではなく、環境を変えることで活動や参加を改善するという考え方も重要になります。
個人因子
個人因子には、その人自身の背景や特徴が含まれます。
たとえば、
- 年齢
- 生活歴
- 職業
- 趣味
- 価値観
- 生活習慣
- これまでの経験
- リハビリテーションに対する考え方
- 本人が大切にしていること
などです。
同じ身体機能や活動能力を持つ人でも、何を目標とするかはその人によって異なります。
「自宅の中を歩ければよい」という人もいれば、「仕事に戻りたい」「畑仕事を再開したい」「旅行へ行きたい」という人もいます。
そのため、対象者本人の価値観や希望を理解することは、リハビリテーションの目標を考えるうえで欠かせません。
ICFでは各要素の「つながり」を考える
ICFをリハビリテーション評価に活用する際に重要なのは、対象者の情報を各項目に分類することだけではありません。
それぞれの要素がどのように関連しているのかを考えることが重要です。
たとえば、脳卒中後の右片麻痺がある人について考えてみます。
健康状態
脳梗塞
↓
心身機能・身体構造
右片麻痺、下肢筋力低下、バランス機能低下
↓
活動
立ち上がりが難しい、歩行に介助が必要
↓
参加
一人で買い物に行くことができない
という関係が考えられます。
しかし、実際にはこれだけではありません。
たとえば、
環境因子
妻の支援がある、杖を使用できる、自宅周囲に坂道が多い
個人因子
「もう一度、自分で近所のスーパーへ買い物に行きたい」
といった情報も対象者の生活に影響しています。
そのため、評価では、
「麻痺があるから歩けない」
と一方向に考えるのではなく、
「どのような身体機能が活動を制限しているのか」
「環境は活動を助けているのか、妨げているのか」
「活動の制限によって、どのような参加が難しくなっているのか」
「本人はどのような生活を取り戻したいのか」
と、それぞれの関係性を考えていきます。
ICFは「問題点を分類する表」ではない
ICFを使用するときに注意したいのが、ICFを単なる「問題点を分類するための表」として使用しないことです。
たとえば、
心身機能:右片麻痺
活動:歩行困難
参加:買い物に行けない
と分類しただけでは、十分な評価とはいえません。
重要なのは、
なぜ歩行が難しいのか
↓
歩行が難しいことで生活に何が起きているのか
↓
本人は何をできるようになりたいのか
↓
そのために身体機能・活動・環境のどこへ介入する必要があるのか
というつながりを考えることです。
ICFは、対象者の問題点だけを探すためのものではなく、対象者の生活機能を多面的に捉え、リハビリテーションの方向性を考えるための枠組みとして活用することが大切です。
リハビリテーション評価をICFの視点で考える
リハビリテーション評価では、
情報収集
↓
検査・測定
↓
問題抽出・統合と分析
↓
目標設定
↓
リハビリテーション計画
という流れの中で、ICFの視点を取り入れることができます。
検査・測定によって心身機能を把握し、動作観察やADL評価によって活動を確認します。
さらに、本人・家族への聞き取りなどから参加、環境因子、個人因子について情報を収集します。
そして、それぞれの情報を関連づけることで、
「この人が現在困っていることは何か」
「その原因や関連する要因は何か」
「この人はどのような生活を望んでいるのか」
「そのために何を改善・調整する必要があるのか」
を考えていきます。
このようにICFを活用することで、リハビリテーション評価を身体機能だけに限定せず、「その人の生活全体をみる評価」へと広げることができます。
リハビリテーション評価では、疾患や障害だけを見るのではなく、対象者がどのような生活を送り、何を大切にし、これからどのような生活を送りたいのかを理解することが重要です。
ICFは、そのための共通した視点を提供する重要な枠組みといえるでしょう。
参考文献・公的資料
- World Health Organization. International Classification of Functioning, Disability and Health: ICF. Geneva: World Health Organization; 2001.
- 世界保健機関(WHO). 『ICF 国際生活機能分類-国際障害分類改定版-』中央法規出版.
- 厚生労働省. 「国際生活機能分類-国際障害分類改訂版-(日本語版)の厚生労働省ホームページ掲載について」2002年8月5日.
- World Health Organization. International Classification of Functioning, Disability and Health (ICF). WHO公式サイト.
厚生労働省:ICF日本語版・解説
厚生労働省の資料では、ICFが2001年5月のWHO総会で採択されたこと、生活機能を「心身機能・身体構造」「活動」「参加」から捉えること、環境因子などを加えていることが説明されています。さらに、活動=課題や行為の個人による遂行、参加=生活・人生場面への関わりという定義も確認できます。
WHO:ICF公式ページ
WHO「International Classification of Functioning, Disability and Health (ICF)」
WHOはICFを、個人および集団レベルで健康と障害を記述・測定するための枠組みとして位置づけています。また、2001年5月22日の第54回世界保健総会で国際標準として承認されたことも公式ページで確認できます。

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