- 注意とは何か?
- 注意の種類
- 注意の神経基盤
- ネットワークと注意機能
- 注意に関する検査
- CAT(Cognitive Assessment of Attention)
- トレイルメイキングテスト(Trail Making Test:TMT)
- 数字記銘(Digit Span:WAISの一部)
- CPT(Continuous Performance Test)
- Stroopテスト
- PASAT(Paced Auditory Serial Addition Test)
- BIT(Behavioral Inattention Test)
- 時計描画テスト(Clock Drawing Test:CDT)
- ダイコティックリスニングテスト(Dichotic Listening Test)
- MoCA(Montreal Cognitive Assessmet)
- TOVA(Test of Variables of Attention)
- 検査選択のポイント
- リハビリと注意機能の改善
注意とは何か?
注意は脳が外部環境や内部思考からの情報を選択し、それに集中する能力を指します。私たちの周囲には膨大な情報が常に流れていますが、注意のおかげで必要な情報に焦点を合わせて、不必要な情報を無視することができます。
注意の種類
注意には以下のように分類されます
選択的注意(Selective Attention)
特定の刺激や情報に収集し、それ以外を排除する能力です
- 例:人ごみの中で、特定の会話を聞き取る(カクテルパーティー効果)
- 神経基盤:前頭前野と頭頂葉が関与し、視床が無関係な情報を抑制します。
- 応用:
- 学習や仕事で効率的にタスクをこなす
- 感覚過負荷を防ぐために重要
分割注意(分配性)(Divided Attention)
複数の情報源やタスクに同時に処理する能力です
- 例:運転しながら会話をする
- 神経基盤:前頭前野が特に重要で、複数の情報を効率的に管理します
- 課題:複雑なタスクでは注意が分散してしまい、エラーのリスクが増大します
- トレーニング方法:
- 簡単なタスクから始めて段階的に複雑さを増すタスクを行う
- 作業記憶のトレーニングを取り入れる
持続的注意(Sustained Attention)
長時間にわたって特定のタスクや情報に集中し続ける能力です。「注意の持続力」とも呼ばれます
- 例:講義を最後まで集中して聞く、映画を見続ける
- 神経基盤:前頭前野と視覚・聴覚領域が関与し、視床が刺激の選別を行います。
- 影響を与える要因:
- 疲労:持続的注意は疲労によって低下します
- 動機付け:興味がある場合、注意が維持しやすい
- 改善方法
- 適度な休憩をとる(ポモドーロ・テクニックなど)
- タスクを短時間に分割して取り組む
シフト注意(転導性)(Shifting Attention)
ある情報やタスクから別のものに柔軟に注意を切り替える能力です
- 例:仕事に取り組んでいたが、電話が鳴ったため今行っている仕事を中断し電話対応した。電話要件が済んだため再び仕事に戻った
- 神経基盤:頭頂葉と前頭前野が協調して働きます
- 適切な切り替えの重要性:
- 注意を頻繁に切り替えると「タスク切り替えコスト」が発生します。切り替え後に元のタスクに集中するために時間を要することがあります
- 柔軟な切り替えができると複数のタスクが効率的にこなせます。仕事の能力が高く、優先順位を的確に設定し完成まで効率的に作業を終わらせることができる人がいます
注意の神経基盤
注意は脳内の複数のネットワークや領域が協力して働くことで実現します
前頭前野
前頭前野は前頭葉の一部です。人間らしい高次の認知機能を担っています。注意機能においては、注意の選択、維持、切り替え、抑制などあらゆるプロセスに重要な役割を果たします。
前頭前野の関与する注意機能
- 選択的注意
- 背外側前頭前野(Dorsolateral Preforontal Cortex:DLPFC)が選択的注意を制御するとされている
- 持続的注意
- 内側前頭前野(Medial Prefrontal Cortex)が注意を維持するためのモチベーションや目標管理を支援しているとされている
- シフト注意(転導性)
- 前頭極(Frontopolar Cortex)が注意の切り替えに重要とされている。DLPFCも関与して柔軟なタスク管理をサポートしている
- 抑制機能による注意(抑制的注意)
- 抑制的注意とは不要な反応や衝動を抑制することです。干渉する情報を排除し、目標に集中する機能のことです。例えばスマホの通知を無視して仕事に集中することができることです。
- 腹側前頭前野(Ventrolateral Prefrontal Cortex:VLPFC)が衝動の抑制や干渉の抑制に関与するとされています。
- 分割注意(分配性)
- DLPFCが、複数の情報を同時に処理する際の計画を管理するとされています。
頭頂葉
頭頂葉は、脳の上部後方に位置する領域で、主に感覚情報の統合や空間的認識、運動計画に関与するとされています。注意機能では、視覚的注意の制御において重要な役割を果たしています。
頭頂葉が関与する注意機能
- 空間的注意(Spatial Attention)
- 空間内の特定の位置や方向に注意を向けます。目や体をその方向に向けるための準備をサポートします。
- 上頭頂小葉(Superior Parietal Lobule)が注意を空間内で維持する働きを担うとされています。右頭頂葉が特に重要で、左右両方の空間を処理しています。
- 視覚的注意(Visual Attention)
- 視覚情報を選択し、重要な部分に焦点を当てます。
- 頭頂後頭皮質(Parieto-Occipital Cortex)が視覚的注意を調整しているとされています。空間内で視覚刺激を効率的に探索する能力を支えています。
- シフト注意(転導性)(Shifting Attention)
- 下頭頂小葉(Inferior Parietal Lobule)が注意を素早く切り替える際に働くとされています。注意システム全体の柔軟性をサポート
- 自動的注意(Reflexive Attention)
- 外部からの突然の刺激に反射的に注意を向けます
- 右頭頂葉が特に重要で、刺激の方向や位置を迅速に特定するとされています。
視床
視床は大脳辺縁系の一部で、脳幹と大脳をつなぐ中継ステーションのような役割を果たします。感覚情報(視覚、聴覚、体性感覚など)を処理し、それを適切な皮質領域に送るだけでなく、注意機能においても重要な働きをしています。
視床は注意を向けるべき情報を選択し、適切な脳領域に伝達する「フィルタリング」役割を担っています。
視床が関与する注意機能
- 感覚情報の選別(Sensory Gating)
- 外部から入る膨大な感覚情報をフィルタリングし、重要な情報を大脳へ送ります。不要な情報を抑制することで注意散漫を防止します。
- 視床内の特定の核、視覚では外側膝状体、聴覚では内側膝状体などが感覚情報を処理しています。
- 持続的注意(Sustained Attention)
- 長時間にわたり注意を目標に向け続ける能力を支えます。視床が皮質と協力して覚醒レベルを維持し注意を集中させます。
- 視床網様核(Reticular Nucleus)が脳全体の覚醒レベルを調整することで注意の持続をサポートします
- シフト注意(転導性)(Shifting Attention)
- 視床前核群(Anterior Nuclei)と前頭前野のネットワークが、注意のシフトをスムーズに行うとされています
- 覚醒と注意喚起(Arousal and Alertness)
- 注意機能の前提となる覚醒状態を維持します。突然の刺激に対して注意を喚起します。
- 網様体賦活系(Reticular Activating System:RAS)を介して注意喚起をサポートします。
視覚・聴覚領域
視覚や聴覚を司る脳領域は、感覚刺激を処理するだけでなく、注意機能にも密接に関与しています。これらの領域は注意のフィルタリング、選択、分割、持続、シフトなどに重要な役割を果たしています。
視覚領域と注意機能
- 視覚的注意(Visual Attention)
- 視覚情報の中から重要なものに焦点を当てます。
- 一次視覚野(V1:Primary Visual Cortex)が基本的な視覚情報を処理し、注意を向けた情報を強調します。
- 側頭ー頭頂接合部(Temporo-Parietal Junction:TPJ)が突然の視覚的変化に注意を向けます(反射的注意)
- 頭頂葉(Parietal Lobe)が空間的注意をコントロールします。
- 空間的注意(Spatial Attention)
- 視覚空間内の特定の位置や方向に注意を向けます。
- 頭頂葉の上頭頂小葉(Superior Parietal Lobule)が注意を維持し、空間内の特定の対象に焦点を当てます。
- 後頭頂皮質(Parieto-Occipital Cortex)が視覚空間の認識と注意の方向付けをします。
- 選択的注意と抑制
- 不必要な視覚方法を抑制し、重要な情報に集中します。
- V4(視覚野の中間領域)、色や形状など特定の視覚特性に基づく注意を選択します。
- 背側注意ネットワーク(Dorsal Attention Network:DAN)、自発的な注意制御を行います。
聴覚領域と注意機能
- 聴覚的注意(Auditory Attention)
- 複数の音の中から特定の音を選択し、それに集中することができます。(カクテルパーティー効果)
- 一次聴覚野(Primary Auditory Cortex:A1)は音の基本的な特徴(音量、周波数など)を処理します。
- 上側頭回(Superior Temporal Gyrus)は複雑な音情報(言語や音楽)を処理します。
- 聴覚的選択とフィルタリング
- 背景音を無視し、必要な音声や音に注意を向けます。
- 側頭葉の中側頭回(Middle Temporal Gyrus)は聴覚情報の細かい分析と選択を行います。
- 前頭前野(Prefrontal Cortex)は聴覚的注意の制御を行います。
- 聴覚的持続注意
- 長時間、聴覚刺激に集中し続けることができます。
- 前頭前野(DLPFC:背外側前頭前野)は聴覚的注意の持続をサポートします。
- 聴覚野と視床のネットワークは注意を持続させる覚醒レベルを維持
ネットワークと注意機能
- 背側注意ネットワーク(Dorsal Attention Network:DAN)
- 自発的注意(意図的に向ける注意)を制御します。また、視覚や聴覚領域はそれぞれ独立して働くだけでなく、他の注意ネットワークとも連携して働きます。
- 視床(Thalamus)、(前頭前野)背外側前頭前野(Dorsolateral Prefrontal Cortex:PLPFC)、(頭頂葉)上頭頂小葉(Superior Parietal Lobule)で構成されます。
- 腹側注意ネットワーク(Ventral Attention Network:VAN)
- 外部刺激に基づく注意のリフレックス的な切り替えを行います。予期しない刺激に迅速に注意を向けます。また、視覚や聴覚領域はそれぞれ独立して働くだけでなく、他の注意ネットワークとも連携して働きます。
- 視床(Thalamus)、(前頭前野)腹側前頭前野(Ventrolateral Prefrontal Cortex:VLPFC)、(頭頂葉)下頭頂小葉(Inferior Parietal Lobule)で構成されます。
- 注意制御ネットワーク(Executive Attention Network)
- 注意の制御と競合を抑制します。
- 前頭前野、帯状回で構成されています。
注意に関する検査
注意機能の様々な側面(選択的注意、持続的注意、分配性注意、シフト注意など)を把握するために検査をします。検査により、注意障害の有無や程度を評価し方針を立てるうえで重要な役割を果たします。
CAT(Cognitive Assessment of Attention)
注意の多面的な側面を評価します。注意の検査の代表格です。
選択的注意、持続的注意、分割注意、シフト注意、空間的注意、抑制機能と干渉について把握することが可能です。
トレイルメイキングテスト(Trail Making Test:TMT)
シフト注意、視覚的探索、処理速度について把握します。
TMT-A:数字を1~25まで順に線で結びます。TMT-B:数字とアルファベットを交互に線で結びます。
数字記銘(Digit Span:WAISの一部)
持続的注意と作業記憶を評価します。
読み上げる数字を順に復唱し、逆方向では逆順に復唱します。
CPT(Continuous Performance Test)
持続的注意と衝動制御を評価します。
一連の視覚刺激(または聴覚刺激)が提示され、特定のターゲット刺激が出た時だけボタンを押します。
Stroopテスト
選択的注意と認知的抑制を評価します
単語の意味とインクの色に違いがある場合に、インクの色を答えます。(文字が赤と書いてあるが、線のインクの色が青の場合、「青」と答えます。
PASAT(Paced Auditory Serial Addition Test)
分割注意、処理速度、作業記憶を評価します。
聴覚で提示された数字を順次足し合わせて答えます(2→5(答え:7)→3(答え:8))
BIT(Behavioral Inattention Test)
空間的注意(半側空間無視)の評価を行います。
線分末梢(Line Cancellation)や模写(Drawing Copying)などの課題を行う。
時計描画テスト(Clock Drawing Test:CDT)
空間的注意や計画能力を簡易的に評価します。
円を描き、時計の針を指定された時刻に合わせて描く。
ダイコティックリスニングテスト(Dichotic Listening Test)
聴覚的選択注意を評価します。
両耳に異なる音声を同時に提示し、特定の耳からの音声を繰り返します。
MoCA(Montreal Cognitive Assessmet)
注意を含む総合的な認知機能を評価します。
様々な課題(視空間能力、言語、注意など)を含む短時間のテストです。
TOVA(Test of Variables of Attention)
注意の持続と抑制を評価します。
視覚または聴覚刺激を用いたコンピューター化されたタスクです。
検査選択のポイント
- 対象者の特性
- 年齢や認知機能の状態に応じた検査を選びます(病院の場合は医師から検査項目について指示があります)
- 小児はCPTやTOVA、成人にはTMTやStroopが適することが多いです
- 目的に応じた検査選択
- 空間的注意が問題の場合:BITや時計描画テスト
- 持続的注意の問題:CPTやPAST
- シフト注意の問題:TMTやStroop
- 全体的な把握:CAT
リハビリと注意機能の改善
リハビリとして注意機能の改善を図る方法として以下のようなアプローチを行うことがあります。
注意練習
選択的注意に対する練習
前頭前野を刺激するために、ノイズの多い環境で重要な情報を選択する課題を行います。
空間的注意に対する練習
頭頂葉に関連したリハビリとして、視覚的探索や空間認識トレーニングを行います。画面や紙に隠れた特定の物体を探す(昔はウォーリーを探せという絵本がありました)。また、半側空間無視に対して意識的に無視する側に注意を向ける課題を実施します。
持続的注意に対する練習
視床や帯状回を活性化するような長時間の集中課題(例えばCPT)を実施します。
シフト注意に対する練習
頭頂葉と前頭前野の連携を強化するためマルチタスクの練習(またはデュアルタスク練習)を取り入れる。
覚醒レベルを高める活動
適度な運動や、環境の変化を活用して注意を喚起します。
マルチモーダル注意練習
視覚と聴覚を組み合わせたタスクを実施します。例えば映像を見ながら音声情報を記録することを行います。
環境調整
雑音や気が散る要因を減らすことで、注意を持続しやすい環境を整えます
日常生活の指導
具体的なタスクに分けて指導を行います。分割注意(分配性)や持続的注意をサポートします
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