スポンサーリンク

脳卒中との闘い

コラム

脳卒中は、脳の血管が詰まる脳梗塞、脳の中の細い血管が破れて出血する脳出血、脳動脈瘤という血管にできたこぶが破裂して出血するくも膜下出血の3つのタイプに分けられます。

脳梗塞と脳出血の症状は非常によく似ていて「半身のまひ、しびれ」「ろれつが回らない、言葉が出ない」「立てない、歩けない、ふらふらする」「視野の半分が欠ける、ものが二重に見える」といった症状が現れます。

くも膜下出血は「突然の激しい頭痛」が特徴で、バットでいきなり後ろから殴られたような頭痛、人生で経験したことがないような頭痛などと表現されることがあります。

重い脳卒中では意識障害が起こりますが、意識障害のない軽症のことも多く見受けられます。

脳卒中は一刻を争う病気です。一命を取り留めた場合も、約7割に後遺症が残るといわれています。疑わしい症状が現れたら直ちに救急車を呼びましょう。

物語を掲載します。一般の方も一緒にお話しできたらいいな と思います。

1.前兆から発症

 眠い朝、無理やり起きて、目を覚まそうとする。体が重いというより、頭が周りをつかめていない。昨晩、久しぶりに高校時代の友人と飲むことになり、話や酒がすすんだ。お互い仕事もあるので10時には別れ、自宅に戻って早めに横になった。すぐに眠りについた。

 明るい光がカーテンから差し込み、部屋の周りを心地よく照らしていた。「さあ、今日も頑張るか」と自分に言い聞かせベッドから抜け出した。洗面台まで行って自分の顔を見ると冴えない顔をしている。自分にはっぱをかけるように叩くように顔を洗った。時計を見るといつもより遅いため、急いで着替えを始める。ようやく頭の中がすっきりしはじめ、食卓に着いた。加瀬沼弘明はアンシン電気で主に設備配線の仕事をしている。設計が専門だったが、もともと手が器用で早く仕上がりがきれいなため31歳の時に抜擢された。セロリの香りのするスープをすすっているとき、娘の光莉(ひかり)が髪を束ねながらバタバタと急ぎ足で向かいのテーブルに立ったままつき、パンを片手にかじりつきながら「私出るねー。行ってきまーす。」と慌ただしく出て行った。妻の亮子は何か包丁で切っている。「智司はまだ起きないのか?ゲームのし過ぎだから、お前から注意するんだぞ」「はいはい。言っておきます。」とぶっきらぼうな返答しながらまだ何かを切っている。私もバッグを手に取り玄関に向かった。

 電車通勤で、駅では知り合いではないが見慣れた顔の人たちが乗り込んでいる。いつも座ることはできないが、押し詰めではなく隣の間は余裕がある。通勤時間は40分なので大変だと思ったことは今までない。電車から降り、駅前のカフェに座っている人を眺めるのが日課になっている。

 出社後、ミーティングを済ませ、同僚の長谷さんと依頼者に作業工程の説明に行くことになっていた。「加瀬沼さんそれでは運転をお願いします」「はい、では安全運転でまいります」

 白いワゴンに乗り込み、運転はいつも自分が行っていた。たわいもない世間話をしながら車を走らせた。昨日は遅くまで中学校時代の友人とお酒を2時過ぎまで飲んでいた。もともと体力には自信があり、夜遅くのみわたることはしょっちゅうだったが、仕事に影響が出ることはなかった。

 話をしている途中、「あそこのお店はとても おいひいおみひぇてすよ(おいしいおみせですよ)」一瞬、口のしびれと呂律が回らない。気持ちが焦ったが、話を続けてみると「今度みんなでそこに行ってみましょうか」「いいですね。ぜひ。」と長谷が返答する。言葉は問題なく発することができ、長谷も気にしていないようだった。現場までここから25分ほど。道路もすいているので、急がなくても大丈夫だ。そのまま休憩を取らず、運転を続けた。

 民家が立ち並ぶ国道を走行している。国道と歩道の間にはガードレール仕切られ、歩行者も多い。前の信号機は青でそのまま直進を続けようとしたその時、ハンドルが急に左に切れる。車線から大きく外れ車が左に曲がる。危ないと思いハンドルを切ろうとするも戻らない。ブレーキに足をかけようとするも動かない。逆に車のスピードが上がった感じを受けた。右手がハンドルから外れている。とっさに左手で右にハンドルを切るが、ガードレールに車体をするようにするのが精いっぱい。大きな衝撃と車がすれる音。前に見える車に衝突し頭が衝撃でエアバックにうずまった感覚がうっすらあるが、そのまま意識を失った。病院で意識が戻るまでその間のことは一切覚えていない。

補足:

 脳卒中の発症予防が必要であるとテレビや雑誌などでも紹介がありますよね。脳卒中予防で「危険因子の管理」というものがあります。脳卒中ガイドライン2021では8項目あります。

 ①高血圧。 降圧目標、75歳未満、冠動脈疾患、CKD(慢性腎不全のこと、蛋白尿陽性)、糖尿病、抗血栓薬服用中の場合は、130/80mmHg未満。また75歳以上、両側頸動脈狭窄や主幹動脈閉塞がある場合、CKD(蛋白尿陰性)では140/90mmHg未満。

 ②糖尿病。 2型糖尿病では食事療法、運動療法、薬物療法がおこなわれます。2型糖尿病では厳格な管理が行われます。

 ③脂質異常症。LDL-コレステロールをターゲットとしたHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)の投与が行われます。

 ④飲酒・喫煙。大量の飲酒や”禁煙”が勧められている。受動喫煙も危険因子であるため受動喫煙会費も重要です。

 ⑤心疾患。非弁膜症性心房細動(NVAF)による心原性脳塞栓症の一次予防にはCHADS2スコア1点以上の場合は、直接阻害型経口抗凝固薬(DOAC)の投与が行われます。またワルファリン投与が行われることもあります。ワルファリン投与されている場合定期的に採血しPT-INRの測定が必要になります。心臓の機能に応じて、外科的手術が必要になることがあります。

 ⑥肥満・メタボリックシンドローム、睡眠時無呼吸症候群、末梢動脈疾患。肥満の改善に努めます。メタボリックシンドロームに対しては、運動・食事療法による適切な減量や内臓脂肪の軽減に努めます。睡眠時無呼吸症候群に対して治療を考慮します。末梢動脈疾患は危険因子である喫煙、高血圧、糖尿病、脂質異常症などを厳格にコントロールし、症状によって抗血小板薬投与が行われる場合があります。

 ⑦慢性腎不全(CKD)。CKDで蛋白尿を認める場合は降圧剤による血圧管理を行います。またCKDに加え、糖尿病、脂質異常症、非弁膜症性心房細動がある場合にはそれに対する治療も行います。

 ⑧血液バイオマーカー。hs-CRP、ヘマトクリット、凝固・線溶系の移乗の場合、原因に応じた治療が行われます。

 専門的な話で分かりにくいと思いますが、こんなことがあると読み飛ばして大丈夫です。

急性期治療

 周りを見渡すと、白い天井がみえる、カーテンで脇を仕切られているが足元が開けていて看護師さんが薬品や器具の準備をしているのが見えた。左側には波形が映し出されているモニターがあり、ぴっ、ぴっ、と心電図の音なのか規則正しく鳴っている。左腕に何か巻かれていて、さらに手首に何か抑えるような分厚い帯が巻かれていて自由に腕を動かすことができない。右腕には点滴の管らしきものが刺さっていて、点滴やら大きい注射器が並んでいる機械とつながっているらしい。こちらの腕も動かないように帯で縛っている。おむつをしているようだが、おしっこが出るように管が入っているようだ。何かの機械の音が聞こえてぐにゃぐにゃのマットの上で寝ている。

 2日ほどここの病院に入院していたようだが、その間全く覚えていない。車の事故の一瞬だけ覚えているが、急なことなのでそれもはっきりしない。意識のないあいだは、叫んだり手足を動かして暴れていたようだ。先ほど見えていた看護師が教えてくれた。それで腕が縛られているのかと気づいた。あとでわかったことだが、このような状態を「せん妄(delirium)」というらしい。大きな手術で麻酔から覚めるときや、肺炎など重い病気で意識がはっきりしない時に異常な言動や行動が起きるらしい。

 話をしようとするが、声が出ない。酸素マスクをつけているが、それが原因ではないようだ。左手は自由に動くが、右手は握ることや腕を動かすことができない。感覚も鈍くそもそも腕があるような感覚がない。

 ピコピコと音が鳴っている中で、暇なのでいろいろ考えてみることにした。そういえば、車に同乗していた長谷は大丈夫なのか?事故の瞬間はガードレールにぶつかっただけでなく、車にもぶつかったような気がする。相手の車の人は無事か?仕事は。。。。。いや、今は仕事のことは考えないようにしよう。家族はどうしているのか?

 白い天井を見ながらあれこれ考えていると、「こんにちは~」とびっくりするような大きい声でこちらを覗き込む人。首元がVの字に切れ込んでいる青いユニフォームを着て首には聴診器をぶら下げている。芸能人のような前髪が目の部分的に隠しているようだった。若く見えるが35歳くらいだろうか。「加瀬沼さん分かりますか?こっちを見てますね。私が見えますよね。良かった。意識がはっきりしているようですね。加瀬沼さんは今日で4日意識がはっきりしていませんでした。私は医師の酒井満彦と言います。ここは帝円大学病院です。」と自己紹介をしてくれました。私は返答しようと「。。。。。。」!?声が出ない。寝ている間にこんなに力が落ちてしまったのか。自分の現状がわからず混乱していると「今は点滴治療中心で行っています。意識がはっきりしているようなので、そろそろ一般棟に

コメント