認知症の診断や評価方法について理解を深めるために、今回は「MMSE(Mini Mental State Examination)」をご紹介します。MMSEは認知症の初期症状や変化を評価する際に用いられる検査であり、その内容や評価項目、注意点などを詳しく解説します。さらに、MMSEの実施や評価方法、他の認知症テストとの比較、認知症への早期対応と注意点についても触れていきます。認知症に関わる重要なテーマを網羅した本記事を通じて、読者の方々がより深く理解を深める手助けとなれば幸いです。
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MMSE(Mini Mental State Examination)の基本事項
MMSEの検査内容と特徴
MMSE(Mini Mental State Examination)は、認知症の診断や病態を評価するために広く使用される検査であり、時間、場所、記憶力、言語能力、計算能力などの認知機能を評価します。MMSEは項目ごとに異なるポイントが設定されており、健常者と認知症患者との間でスコアの違いが見られる特徴があります。
MMSEの評価項目と評価用紙
MMSEの評価項目には、時間の見当識、場所の見当識、言葉の記銘、計算力、注意力、遅延再生などが含まれます。検査は簡単な質問や指示に対する患者の反応を評価し、評価用紙にスコアを記録します。これにより患者の認知機能の状態を客観的に評価することが可能となります。
MMSEの点数とカットオフ値について
MMSEの点数は最大30点であり、一般的には24点以上が正常範囲とされます。認知症の症状が進行するにつれ点数は低下していく傾向があります。MMSEにて認知症の重症度を簡易的に判定することもあります。
軽度: 21点以上を軽度
中等度:11~20点
重度: 0~10点 としています。
認知症の重症度判定は臨床認知症尺度:Clinical Dementia Rating (CDR) を使用することが望ましいとされています
また、24点以下であれば即「認知症」とはなりません。「認知症」の診断は医師が行います。MMSEの点数が低いときは、せん妄状態、集中力がない、やる気がないという状態でも生じます。「認知症の検査をやらされている」と思うと検査拒否となる方もいるため検査の導入には注意が必要です。
認知症の診断は医師が行います。医療スタッフがMMSE検査で認知症の診断を行うことはできません。
もう一つの注意は、同じ内容の検査を短期間に頻回に行うことで検査に慣れて(覚えて)しまい、点数が向上することがあるため注意が必要です。
MMSEの評価に必要な準備
MMSEの評価を行う際には、静かな環境で患者に集中してもらうことが重要です。また、検査を行う医療従事者は患者とのコミュニケーションを円滑にするために、適切な指示や質問方法を工夫する必要があります(「ここはどこですか」で学歴が高くプライドの高い人は気分を害される場合があります)。検査の前に患者や介護者に対して十分な情報提供が行われることも重要です。
MMSEの注意点
MMSEを評価する際には、患者の個々の文化や言語背景を考慮する必要があります。また、検査の結果だけでなく、患者の日常生活や関わる環境なども総合的に評価することが重要です。そのためDASK-21の検査を組み合わせることが多いです。検査結果をもとに正確な診断や適切なケアプランを立てるためには、複数の側面からの情報収集が欠かせません。
MMSE(Mini Mental State Examination)の実施と評価方法
MMSE(Mini Mental State Examination)の実施と評価方法について、以下では具体的な検査項目とその評価について解説します。評価の詳細は下記にあります。
1. 時間の見当識に関する検査
時間の見当識検査では、患者が現在の日付や曜日を正確に把握できるかを評価します。
2. 場所の見当識の評価方法
場所の見当識検査では、患者が現在いる場所や施設の名称を正確に認識できるかを確認します。
3. 言葉の記銘による評価
言葉の記銘検査では、患者が指示された言葉や文章を記憶し、再現できるかを評価します。
4. 計算力や注意力のチェック
計算力や注意力の検査では、患者に簡単な計算問題や集中力を要する課題を与え、適切に対応できるかを評価します。
5. 遅延再生による物品呼称の評価手法
遅延再生検査では、患者に数個の単語や物品を覚えさせ、一定時間後に再度記憶してもらうテストを行います。物品呼称検査では、患者が提示された物品を適切に命名できるかを評価します。
6. 復唱による認知能力テスト
復唱テストでは、患者に短い文章や数字列を聞かせた後、正確に繰り返せるかを評価します。これにより言語理解や記憶力を評価します。
7. 言語理解と文章構成のチェック方法
言語理解検査では、患者が指示や質問に適切に反応できるかを評価し、文章構成検査では、患者が論理的に文章を組み立てる能力を評価します。
8. 図形的能力の評価手順
図形的能力検査では、患者に幾何学的な図形を認識させ、特定の図形を描いたり配置する課題を与えて能力を評価します。
MMSEの評価内容の詳細
1. 時間の見当識 (5点:各1点)
「今日は何日ですか」
「今年は何年ですか」
「今の季節は何ですか」
「今日は何曜日ですか」
「今月は何月ですか」
最初の質問で被検者の回答に複数の項目が含まれてもいいです。その場合該当する項目の質問は省きます。
2. 場所の見当識 (5点:各1点)
「ここは都道府県でいうと何ですか」
「ここは何市(*町・村・区など)ですか」
「ここはどこですか」(*回答が地名の場合、この施設の名前は何ですか、と質問をかえます。正答は建物名のみです)
「ここは何階ですか」
「ここは何地方ですか」
3. 即時想起 (3点:各1点)
「今から私がいう言葉を覚えてくり返し言ってください。
『さくら、ねこ、電車』はい、どうぞ」
*検者は3つの言葉を1秒に1つずつ言います。その後、被験者にくり返していただき、この時点でいくつ言えたかで得点します。
*正答1つにつき1点です。合計は3点満点です。
「今の言葉は、後で聞くので覚えておいてください」
*この3つの言葉は、質問5で再び復唱させるので3つ全部答えられなかった被験者について
は、全部答えられるようになるまでくり返します(ただし6回まで)。
4. 計算 (5点)
「100から7を引いて、出た答えから7を引きます。5回それをくり返してください」
*5回くり返し7を引いた数字を答えます。正答1つにつき1点です。合計は5点満点です。
正答例】93 86 79 72 65
*答えが止まった場合は「それから」と促します。
5. 遅延再生 (3点:各1点)
「さっき私が言った3つの言葉は何でしたか」
*質問3で提示した言葉を再度復唱していただきます。
6. 物品呼称 (2点:各1点)
時計(又は鍵)を見せながら「これは何ですか?」
鉛筆を見せながら「これは何ですか?」
*正答1つにつき1点です。合計は2点満点です。
7. 分の復唱 (1点)
「今から私がいう文を覚えてくり返し言ってください。
『みんなで力を合わせて綱を引きます』」
*口頭でゆっくり、はっきりと言って、『』の部分をくり返していただきます。1回で正確に答えられた場合に1点となります。
8. 口頭指示 (3点)
*紙を机に置いた状態で教示を始めます。
「今から私がいう通りにしてください。
右手にこの紙を持ってください。それを半分に折りたたんでください。
そして私にください」
*段階毎に正しく作業した場合に1点ずつ与えます。合計は3点満点です。
9. 書字指示 (1点)
「この文を読んで、この通りにしてください」
*被験者は音読でも黙読でもかまいません。実際に目を閉じれば1点を与えます。
10. 自発書字(1点)
「この部分に何か文章を書いてください。どんな文章でもかまいません」
*検者が例文を与えてはいけません。意味のある文章ならば正答とします。(*名詞のみは誤答、状態などを示す四字熟語は正答)
11. 図形模写(1点)
「この凹形を正確にそのまま書き写してください」
*模写は角が10個あり、2つの五角形が交差していることが正答の条件です。手指のふるえなどはかまいません。
MMSEのPDFファイル
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