mRS(modified Rankin Scale)と運動麻痺の評価の関係
mRS(modified Rankin Scale)は、脳卒中患者さんの日常生活における全体的な機能障害(ADL障害の程度)を評価する尺度です。
運動麻痺そのものを直接スコア化する評価ではありませんが、運動麻痺の重症度がmRSのレベルに強く反映されるため、臨床で使用されることがあります。ここでは「運動麻痺とmRSがどう関係するのか」「mRSスコア別にみられやすい運動麻痺を、リハビリ実務向けに詳しくまとめました。
mRSとは?
mRSは0~6の7段階でどの程度身の回りの生活が自立しているかを評価する尺度です。
| スコア | 説明 |
| 0 | 神経学的症状なし・健常と同等 |
| 1 | 症状はあるが日常生活は完全自立 |
| 2 | 軽度の障害。時間がかかるが日常生活自立 |
| 3 | 中等度の障害。部分的に日常生活で介助が必要 |
| 4 | 明らかな障害。歩行や日常生活においてほぼ介助が必要 |
| 5 | 重度の障害。臥床・全介助レベル |
| 6 | 死亡 |
運動麻痺とmRSの関係の基本
mRSは運動麻痺を「直接」点数化しませんが。。。
- 上肢・下肢の麻痺が強い → ADL制限が大きくなる → mRSは高くなる
- 歩行能力はmRSのスコアに最も影響がある
- 片麻痺に加えて失語・半側空間無視など高次脳機能障害があるとmRSは高くなる
- FIMやSIAS、FMAで運動機能やADLが改善するとmRSは下がる傾向にある
運動麻痺の重症度はmRSスコアの決定因子のひとつです
mRSスコア別 想定される運動麻痺の特徴
mRS 0 : 運動麻痺なし
- 片麻痺はない。または片麻痺は消失。感覚障害、高次脳障害なし
- 反復動作・協調性も正常
- 社会活動、仕事の制限はない。競技レベルの動きも可能なことが多い
mRS 1 : ごく軽度の運動麻痺
- Brunnstrome stage Ⅴ~Ⅵレベル
- 外見上はほぼ健常であることが多い
- 手指の巧緻性の軽度低下
- 早歩きや段差でわずかなぎこちなさ。疲れやすい、ちょっとぎこちない、スポーツで差が出る。
- 日常生活でほぼ問題なし
mRS 2 : 軽度~中等度の運動麻痺
- Brunnstrome stage Ⅴ~Ⅵレベル
- 手指の巧緻性の軽度低下。家事、仕事に支障が出ることが多い
- 片脚立位、巧緻性の高い動作で不安定になる
- 日常生活でほぼ問題ないが、時間がかかることがある
mRS 3 : 中等度の運動麻痺(ADLの一部で介助)
- Brunnstrome stage Ⅲ~Ⅳレベル
- 上肢は屈曲・伸展共同運動が残存
- 歩行は可能だが明らかな歩容の異常。屋内歩行は可能
- TUG・BBSは大きく低下
- 手指は実用手としては難しいことが多い
- 仕事復帰は難しくなるケースが多い
- トイレ・入浴・階段昇降などで部分的介助が必要
mRS 4 : 中等~重度の運動麻痺(歩行・ADLで全介助)
- Brunnstrome stage Ⅱ~Ⅲレベル
- 座位保持・バランスに問題あり
- 歩行は平地で介助(または車いす主体)
- 上肢は支持・姿勢補助も困難
- 生活全般で介助が必要
mRS 5 : 重度の運動麻痺(全介助・臥床レベル)
- Brunnstrome stage Ⅰ~Ⅱレベル
- 臥床が中心
- 起き上がり・座位も難しい。寝返り・食事・排泄に介助が必要
- 筋緊張異常・拘縮リスクが高い。褥瘡などの皮膚トラブルの予防が重要
mRS 6:死亡
- 一般的には急性期の評価で用いられる
まとめ
mRSは運動麻痺だけでなく、認知機能、高次脳機能などの影響を含めた総合的な生活自立度スケールです。
運動麻痺評価とmRSを組み合わせる意義
各検査と組み合わせることで、臨床的に意味が出てきます。
経過フォロー
- SIAS、FMA、Brunnstrome stageで運動状態を評価
- mRSとFIMで生活レベルの改善の程度を評価
機能改善とADL改善の両輪を見ることができます
回復予測
- 下肢の随意性(FMA-LE)
- 歩行能力(10mWT、FAC)
これらが良いほどmRSの低下(改善)が起こりやすい
退院時の生活レベル判断
- 同じ麻痺でも、高次脳機能障害の有無でmRSが変わってくる
- 在宅復帰 or 施設などの方針決定に影響
mRSと運動麻痺のよく見られる特徴
パターンA:軽度片麻痺(Br.Ⅴ) → mRS 1~2が多い
パターンB:中等度片麻痺(Br.Ⅲ~Ⅳ) → mRS 3が多い
パターンC:重度片麻痺(Br.Ⅰ~Ⅱ) → mRS 4~5が多い
mRSの対象となる疾患(主に使われる疾患)
mRSはもともと脳卒中(脳梗塞・脳出血・クモ膜下出血)後の機能障害の程度を評価するために作られた指標です。対象疾患は以下の通りです。
脳卒中
- 脳梗塞
- 脳出血
- くも膜下出血
最も多く論文で見かけます。そのためエビデンスが豊富です。臨床試験、予後研究、リハビリ評価として標準的に利用されています。
外傷性脳損傷(TBI)
- 高次脳機能障害や運動麻痺による生活障害の把握に使用
脳腫瘍術後
- 術後の生活自立度の評価
- 片麻痺やADL障害の程度の把握
炎症性疾患
- 脳炎、髄膜炎 → 後遺症としてのADL障害・運動障害の評価に使用されることがあります
神経難病(部分的に)
- 多発性硬化症(MS)
- ギラン・バレー症候群(GBS)
☆ 疾患別のスケールがあるため、それを優先して評価が実施されることが多いです。

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