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褥創ステージと適切な介入の包括ガイド

褥瘡のステージ

 褥創(床ずれ)の治療は、褥創のステージに応じて異なるアプローチが必要です。褥創は大に以下の4ステージに分類されます

ステージ1 stage Ⅰ

  • 皮膚の表面に赤みが見られますが、皮膚の損傷はまだ表面的です。
  • 主な治療は圧力の除去と皮膚の保護に焦点を当てたケアとなります。
  • 表皮(Epidermis)(角質層・基底層)について。最も外側の層。血管はなく、栄養は真皮からの拡散によって受け取ります。角質層や基底層などから構成されます。外部刺激や細菌の侵入から守るバリア機能が主な役割です。表皮は褥創で最初に影響する層で、ステージ1の褥瘡では発赤のみで、表皮が損傷していない状態です。

ステージ2 stage Ⅱ

  • 真皮までの損傷があり、小さな潰瘍や水泡が見らえることがあります。
  • 清潔に保ち、適切なドレッシングを使用して保護することが治療の中心です。除圧を徹底します。
  • 真皮(Dermis)(乳頭層・網状層)について。表皮のすぐ下で血管・リンパ管・神経・毛包・汗腺などが含まれます。主にコラーゲンとエラスチン線維からなり、皮膚の強度と弾性を支える層です。真皮まで損傷が及ぶとステージ2の褥創となり、浅い潰瘍や水泡が見られます。

ステージ3 stage Ⅲ

  • 皮膚の全層が損傷し、皮下脂肪が露出している状態ですが、骨や筋肉は露出していません。
  • 壊死組織の除去、感染防止、適切なドレッシングの選択が必要です。除圧を徹底します。
  • 皮下組織(Subcutaneous tissue/Hypedermis)について。脂肪組織(皮下脂肪)が主な構成要素です。衝撃吸収・体温保持・エネルギー貯蔵・皮膚の柔軟性を担います。血管・神経が豊富に分布しています。この層まで壊死や潰瘍が進行するとステージ3の褥創に分類されます。

ステージ4 stage Ⅳ

  • 皮膚、脂肪層を超えて筋肉や骨が露出している非常に深刻な状態です。
  • 専門的な医療介入が必要で、壊死組織の除去、感染管理、そして場合によっては手術が必要になることもあります。
  • 筋膜(Fascia)について。筋肉の外側を覆っている強靭な結合組織で、浅筋膜(表在筋膜)と深筋膜に分かれます。筋肉と他組織の間で摩擦やずれを減らす役割があります。筋肉(Muscle)について。骨格筋が皮下に存在し、動作に関わる主要組織です。血流が多いため、感染が広がると重症化しやすい場所です。骨(Bone)について。最深部に位置し、圧迫が骨の突出部にかかると褥瘡が発生しやすくなります。褥瘡が筋層や骨まで到達している場合はステージ4とされ骨髄炎のリスクも高くなります。また骨にまで感染や壊死が波及すると外科的治療が必要になります。

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褥瘡処置におけるドレッシング材

 日本で使用できる褥創の処置におけるドレッシング材としてはいくつかの製品があげられます。いかに代表的な製品を示します。

  1. ハイドロコロイドタイプのドレッシング材
    • テガダーム(3MTMテガダームTMハイドロコロイド)
    • デュオアクティブ(コンバテック ジャパン)
    • アスキナ(ビー・ブラウンエースクラップ)
    • コムフィール(コロプラスト)
  2. シリコーンゲルドレッシング材
    • エスアイエイド(アルケア株式会社)
    • デルマエイド(アルケア株式会社)
    • シルキーポア(アルケア株式会社)
  3. 抗菌性ハイドロコロイドドレッシング材
    • バイオヘッシブAg(アルケア株式会社)

 これらのドレッシング材は、創部の状態や浸潤液の量、創部の感染の有無などに応じて選択されます。特にハイドロコロイドは閉鎖性が高く、湿潤環境を長時間維持することが可能になります。また、シリコーンゲルドレッシングは皮膚への負担が少なく、敏感な皮膚にも使用しやすい特徴があります。

褥瘡治療の軟膏

 褥瘡の処置に使用される軟膏には様々な種類があり、それぞれ特定の状態や目的に応じて選択されます。褥創によく使用される軟膏を紹介します。

  1. ユーパスタ軟膏
    • 殺菌効果があり、浸出液が多い創に適しています。傷口を清潔に保つことが期待できます。
  2. カデックス軟膏
    • 殺菌効果があり、浸出液の多い創に使用されます。また、浸出液を吸収して傷をきれいにする効果もあります。
  3. ゲーベンクリーム
    • 抗菌作用がある銀を含む薬品で、特に乾燥した傷に適しています。
  4. フィブラストスプレー
    • 肉芽形成促進や血管新生作用があり、創面治癒過程において重要な役割を果たします。
  5. プロスタンディン軟膏
    • 創面の循環環境や肉芽形成、表皮形成促進作用があります。

褥瘡の治療と予防 栄養の観点から

 褥瘡の治療と予防において栄養が非常に重要です。特にたんぱく質、ビタミンC、亜鉛は褥創の治癒に効果があるとされています。これらの栄養素は皮膚の修復と新しい組織の形成を助けるため、摂取が推奨されます。

 タンパク質は筋肉や皮膚の修復に不可欠であり、ビタミンCはコラーゲンの合成に関与しています。亜鉛は細胞の増殖に重要な役割を果たします。これらの栄養素を補うために、高タンパク質の補助食品や、コラーゲン加水分解物を含むものを摂取します。

  1. エンジョイクリミール(森永乳業クリニコ)
    • タンパク質と亜鉛を含む125mlの栄養補助飲料で、バランスよく栄養補給が可能です。また、消化吸収に配慮した糖質を含む「エンジョイクリミールFiber+」もあります
  2. リハデイズ(大塚製薬)
    • リハビリや運動時の栄養補給に適した飲料で、ロイシン、シトルリン、ビタミンDなどの栄養素を含んでいます。筋肉や骨のための栄養補給に配慮しています。
  3. エプリッチドリンクSara(フードケア)
    • コラーゲンペプチドを使用した栄養補助飲料で、タンパク質と亜鉛が補給できます。コラーゲンペプチドは水に溶け、吸収性が高いため、傷の修復を促進する効果が期待されます。
  4. メイバランスMini(明治乳業)
    • 様々な味が用意されていて、飽きにくい工夫がされています。必要な栄養素をバランスよく補給できる点が特徴です。タンパク質、ビタミン、ミネラルが含まれていて200Kcalのエネルギーを供給できます。
  5. メイバランスソフトJelly(明治乳業)
    • 滑らかな食感で、特に嚥下機能が低下している方に適しています。メイバランスMiniと同様の栄養素でバランスよく配合されていて、エネルギー補給にも役立ちます。

エアマットの機能と除圧効果

 エアマットとは体圧分散型マットレスの一種で、空気の流れを利用して体圧を分散し褥瘡の予防や治療を目的として使用される医療用マットレスです。寝たきりの方や長時間ベッド上で過ごす高齢者、重度の障害を持つ方などに広く使われています。

エアマットの機能

体圧分散機能

  • 人の体は骨突出部(仙骨部、踵部、大転子部など)に圧が集中しやすくそれが褥創の原因になります。
  • エアマットは体全体の圧力を均一に分散し、特定部位への圧力集中を防ぐ設計になっています。

交互圧機能(動的除圧)

  • エアマットには交互圧方式という機能が搭載されています。
  • 交互圧方式マットレスは、内部の空気が定期的に入れ替わることで、体の接触面を緩やかに変化させ、局所的な血流障害を防ぐ仕組みです。(何分かごとに左右または縦方向のチャンバー(空気室)が膨らんだりしぼんだりします。)
  • この機能により「持続的圧迫」→「圧迫解除」→「血流回復」が繰り返され褥瘡のリスクが下がります。

体位保持と安定性

  • 柔らかすぎるマットでは姿勢が不安定になり「ずれ」「摩擦」が増えてしまいます。
  • エアマットは適度な沈み込みと支持力を両立することで、安全な寝る姿勢と皮膚保護を両立します。

通気と湿度管理

  • 一部の製品ではマット内に送風機能があり、汗や湿気のこもりを軽減して皮膚のムレを防止します。
  • 皮膚の過湿は褥瘡発生のリスク要因の一つです。

エアマットの除圧効果

持続的な圧力の回避

  • 人の皮膚は30~60分以上の持続的な圧迫により血流障害を起こしやすくなります。
  • エアマットは圧を周期的に変化させることで、一定部位に圧力がかかり続けないよう制御します。

深部組織損傷(DTI)の予防

  • 皮膚の奥深くで損傷がおきる「深部組織損傷(DTI)」は、表面に症状が出にくく、気づいたときには悪化していることがあります。
  • エアマットは深部への圧力負荷を減らすことで、DTIの予防にも効果があります。

寝返りが難しい人の代替的除圧手段

  • 自力での体位変換が困難な方では、エアマットが自動的に除圧を補うことで、介助者の負担も軽減されます。

製品の選び方と注意点

利用者の体重

  • 一部のエアマットは耐荷重制限があります。使用者の体重や体格に合わせて仕様を選びます。

体動の有無

  • 自力で寝返りできる人には静的エアマットまたは体圧分散マットレス、自力不可なら交互圧型エアマットを検討します。

使用環境

  • 空気ポンプの作動音や電源の有無など、施設・在宅どちらにも適応可能なものを選定します。

適切な使い方

  • シーツやパッドを重ねすぎると除圧効果が減少するので注意してください。マットの調整も必要です。

エアマットを使用することで体位変換(体交)が不要になるの?

 交互圧機能付きエアマットを使用しても、体位変換(体交)が完全に不要になるわけではありません!

 頻度は減らせる可能性があります。

エアマット使用時の体交頻度の目安

自力で寝返りができる方

 基本的には体交不要(モニタリング継続)

交互圧エアマット+中等度のリスク

 4時間ごとの体交を実施します(ただし、個別で評価し判断します)

高リスク(栄養不良や湿潤ありなど)

 2時間ごとの体交が望ましい。また、仙骨部等に発赤があるが消えない場合も2時間ごとの体交を実施します。

褥創の予防的観点

リスク評価ツールの使用

 スケールを使用することで褥瘡の発生するリスクの高い患者をリストアップすることができます。リスクの高い患者を優先して一日に複数回の皮膚の評価を行うことで、褥瘡の発生リスクを軽減させることができます。また、早期に発見することができるため対応を速く行うことができます。

ブレーデンスケール

 褥瘡発生のリスクを評価するために使用されるツールで、知覚の認知、湿潤、活動性、可動性、栄養状態、摩擦とずれを評価します。それぞれ1点(最も悪い)から4点(最も良い)で、摩擦とずれのみ1~3点で評点を付け、加算すると6~23点となり、合計点が低いほど高リスクです。

OHスケール(大浦・堀田スケール)

 危険要因は、自力体位変換能力、病的骨突出(仙骨部)、浮腫、関節拘縮の4つです。その合計点で危険度レベルを決定します。1~3点:軽度、4~6点:中等度、7~10点:高度となります。非常に簡便なスケールです。

厚生労働省「褥瘡対策に関する診療計画書」

 厚生労働省「褥瘡対策に関する診療計画書」のうち、危険因子の評価の項目で、チェックし「あり」「できない」にチェックがあれば看護計画を立案し計画を実施します。

K式スケール(金沢大学式褥創発生予想スケール)

 前段階要因は「自力体位変換不可」「骨突出」「栄養状態 悪い」の3つで、この前段階要因に一つでもチェックがあれば、褥瘡発生危険状態と考えられる。褥瘡発生危険状態で引き金要因(「体圧」「湿潤」「ずれ」)にチェックが入れば1週間以内に褥瘡が発生する可能性があるとされています。

皮膚の視覚的評価

赤みの確認

 特に圧力がかかりやすい骨突出部(尾てい骨、かかと、肘、肩甲骨など)の皮膚を注意深く観察します。赤みが消えない場合は、褥瘡の初期段階の可能性があります。

皮膚の温度

 通常の皮膚よりも温かいか、または冷たいかを触って感じ取ります。温度の変化も褥瘡の兆候の一つです。

皮膚の触診

硬さの評価

 圧迫された部分の皮膚が硬くなっていないかを確認します。効果は内部組織のダメージを示唆していることがあります。

痛みの評価

 患者に圧迫部位が痛むかどうかを尋ねます。痛みの訴えも早期の兆候です。

関節拘縮

 関節拘縮は関節の問題に思えますが、その存在自体が褥瘡発生の危険性が大幅に高まる要因です。関節拘縮とは、関節が硬くなり、動く範囲が制限されている状態を指します。屈曲拘縮とは関節が屈曲(曲がった状態)で固まり、伸展方向(伸ばす)に制限が出ている状態を指します。

関節拘縮が褥創リスクを高める主な理由

 下肢に屈曲拘縮があるとすると以下の要因によって褥創のリスクが高まります。今回は下肢中心に解説しますが、上肢や頭頚部の拘縮も同じ理由で骨突出部に圧がかかるため褥創が出現しやすくなります。

体動制限による圧迫持続

 下肢の関節が屈曲拘縮して下肢が曲がったまま伸ばせないと、自力で体位変換することが難しくなります。その結果、特定の部位が長時間圧迫され続け、局所の血流が低下して褥創が発生しやすくなります。特に股関節・膝関節の屈曲拘縮は全身の体動を困難にし、寝たきり状態を助長します。

体圧の局所集中

 拘縮によって姿勢が制限されるだけでなく、大腿部と下腿部の重量がかかり、仙骨部や踵部の骨突出部に圧が集中しやすくなります。膝関節の屈曲角度が増すほど仙骨部の接触圧は上昇する傾向があり、上部仙骨では膝屈曲145度、下部仙骨では膝屈曲100度の時に最も接触圧が高かったと報告されています。

骨突出の強調と摩擦・ずれ応力

屈曲拘縮が長期に至る場合、不動も伴い殿筋群の筋萎縮が著明になります。それにより仙骨部、大転子部の骨突出が強調されます。また、踵部のクッションにあたる脂肪組織や軟部組織が減少し骨が突出するため、踵部の褥創も経験されます。

 ベッドの背上げでは背面からの圧迫と重力による体が下に沈み込むずれ応力が坐骨、仙骨、胸腰椎に働きます。また、下肢が伸展している場合は足方向に体がずれていく方向に力が加わります。そのため、下肢を屈曲させ足方向のずれを少なくする対応を取ります。ただ、もともと屈曲拘縮が強い方は骨盤が後傾していることが多く、下肢を屈曲する対応をしても滑り込む形で姿勢不良になります。食事の時などの1時間程度であればベッドの背上げの状態で座位を保ってもいいですが、2時間超える状態の場合は褥瘡が発生する可能性が高くなります。

踵・足部への影響

 下肢の屈曲拘縮により踵が常にベッドに押し当てる状態が続くことがあります。また下肢屈曲位の状態を保つことが大変なため、側臥位の姿勢が多くなり、外踝に圧がかかることがあります。この踵部と外踝部も褥瘡が発生しやすい部分です。

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