1.はじめに
Fugl-Meyer Assessment(FMA:フューゲル・マイヤー評価法)は、脳卒中後の運動機能や感覚機能、バランス能力、関節可動域、関節痛などを評価するために開発された評価尺度です。
FMAは運動麻痺の回復程度を評価する方法として広く知られていますが、運動機能だけではなく、感覚障害や関節の状態についても評価することができます。
脳卒中後の運動障害には、筋力低下や運動麻痺だけでなく、感覚障害、関節可動域制限、疼痛などが関与します。
例えば、運動麻痺が比較的軽度であっても、深部感覚障害によって手足の位置を正確に把握できず、動作が不安定になる場合があります。
また、関節可動域制限や疼痛が存在すると、随意運動が可能であっても、実際の運動範囲が制限されることがあります。
そのため、FMAでは運動機能に加えて、感覚・関節可動域・関節痛を評価することが重要です。
本記事では、FMAの感覚・関節可動域・関節痛について、評価項目、採点方法、臨床上の注意点を解説します。
2.FMAの評価構成
FMAの従来の全体評価は、以下の領域で構成されています。
| 評価領域 | 満点 |
|---|---|
| 上肢運動機能 | 66点 |
| 下肢運動機能 | 34点 |
| バランス | 14点 |
| 感覚 | 24点 |
| 関節可動域 | 44点 |
| 関節痛 | 44点 |
| 合計 | 226点 |
今回解説する3領域の合計は112点です。
なお、FMAには評価領域を分けて実施する方法があり、運動機能のみを評価する場合には上肢66点、下肢34点が用いられます。バランスを含めない構成もあるため、使用した評価版と領域を明記する必要があります。
3.感覚機能の評価(24点)
感覚機能は、触覚と位置覚の2種類について評価します。
| 評価項目 | 上肢 | 下肢 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 触覚 | 4点 | 4点 | 8点 |
| 位置覚 | 8点 | 8点 | 16点 |
| 合計 | 12点 | 12点 | 24点 |
3-1.触覚の評価
触覚は、皮膚に加えた軽い刺激を認識できるかを評価します。
評価部位は次の4か所です。
| 部位 | 評価する場所 | 満点 |
|---|---|---|
| 上肢 | 上腕・前腕領域 | 2点 |
| 上肢 | 手掌 | 2点 |
| 下肢 | 大腿部 | 2点 |
| 下肢 | 足底 | 2点 |
評価方法
対象者には閉眼してもらい、評価者が皮膚に軽く触れます。
麻痺側と非麻痺側を比較し、刺激を認識できるか、感覚の違いがあるかを確認します。
採点方法
| 点数 | 判定 |
|---|---|
| 0点 | 触覚が認識できない |
| 1点 | 感覚鈍麻や異常感覚がある |
| 2点 | 正常な触覚を認める |
評価時の注意点
- 視覚による判断を避けるため、閉眼して評価します。
- 刺激の強さをできるだけ一定にします。
- 非麻痺側の感覚も確認し、比較します。
- 感覚鈍麻だけでなく、異常感覚の有無も確認します。
- 注意障害や理解力低下による反応の不確実性に注意します。
特に注意障害がある場合、刺激に反応しないことが必ずしも感覚脱失を意味するわけではありません。
3-2.位置覚の評価
位置覚は、視覚を使用せずに関節の位置や動きを認識する能力です。
位置覚障害がある場合、手足の位置を把握しにくくなり、運動の正確性や姿勢制御に影響することがあります。
評価部位
| 上肢 | 下肢 |
|---|---|
| 肩関節 | 股関節 |
| 肘関節 | 膝関節 |
| 手関節 | 足関節 |
| 母指 | 母趾 |
各部位2点、合計16点です。
評価方法
- 対象者に閉眼してもらいます。
- 評価者が対象関節を他動的に動かします。
- 対象者に動いた方向や関節位置を答えてもらいます。
- 反応の正確性を確認します。
- 必要に応じて非麻痺側と比較します。
採点方法
| 点数 | 判定の目安 |
|---|---|
| 0点 | 正答が著しく少なく、位置覚がほぼ認められない |
| 1点 | おおむね4回中3回正答するが、感覚の違いがある |
| 2点 | 正確に認識でき、非麻痺側との差がほとんどない |
標準的な評価手順では、正答率だけでなく、非麻痺側との感覚の違いも考慮します。
評価時の注意点
位置覚を評価する際には、触覚刺激によって運動方向を推測できないようにすることが重要です。
例えば、母趾の位置覚を評価する際、爪側や足底側を強く押してしまうと、触圧覚を手掛かりに運動方向を判断できる可能性があります。
そのため、できるだけ側面を把持して評価します。
また、関節を動かす速度や範囲が毎回大きく異ならないように注意します。
4.関節可動域の評価(44点)
FMAの関節可動域評価では、上肢と下肢の他動関節可動域を確認します。
運動麻痺による随意運動の制限と、拘縮などによる他動運動の制限を区別するうえで重要です。
4-1.上肢の評価項目(24点)
| 関節 | 評価運動 | 満点 |
|---|---|---|
| 肩関節 | 屈曲、外転、外旋、内旋 | 8点 |
| 肘関節 | 屈曲、伸展 | 4点 |
| 前腕 | 回内、回外 | 4点 |
| 手関節 | 掌屈、背屈 | 4点 |
| 手指 | 屈曲、伸展 | 4点 |
| 合計 | 12項目 | 24点 |
4-2.下肢の評価項目(20点)
| 関節 | 評価運動 | 満点 |
|---|---|---|
| 股関節 | 屈曲、外転、外旋、内旋 | 8点 |
| 膝関節 | 屈曲、伸展 | 4点 |
| 足関節 | 背屈、底屈 | 4点 |
| 足部 | 回内、回外 | 4点 |
| 合計 | 10項目 | 20点 |
上肢12項目、下肢10項目で、合計22項目44点となります。
4-3.評価方法と採点
対象者の関節を評価者が他動的に動かし、可動範囲を確認します。
非麻痺側との比較も行い、関節可動域制限の程度を評価します。
| 点数 | 判定の概要 |
|---|---|
| 0点 | 他動可動域が著しく制限されている |
| 1点 | 他動可動域が部分的に制限されている |
| 2点 | 正常な他動可動域を認める |
可動域制限の具体的な判定基準は、使用するFMAの評価用紙・マニュアルに従います。単純に正常可動域の何%かだけで採点できるとは限りません。
4-4.評価時の注意点
① 筋緊張の影響
痙縮が強い場合、関節を速く動かすと伸張反射が誘発され、実際の他動可動域よりも制限されているように見える場合があります。
ゆっくりとした他動運動を行い、筋緊張の影響を考慮します。
② 代償運動の防止
肩関節の屈曲や外転では、肩甲帯や体幹の代償運動に注意します。
股関節の運動では、骨盤の傾斜や回旋によって実際の可動域が過大評価されることがあります。
③ 関節拘縮との区別
他動関節可動域の制限には、筋短縮、関節包の拘縮、疼痛、浮腫などが関与します。
可動域制限が認められた場合には、原因を追加評価することが重要です。
④ 経時的な変化の確認
関節可動域は、運動麻痺の回復とは別に変化することがあります。
例えば、運動機能が改善していても、肩関節痛や拘縮が進行する場合があります。
FMAの運動機能と関節可動域を別々に記録することで、これらの変化を把握しやすくなります。
5.関節痛の評価(44点)
FMAの関節痛評価では、関節を他動的に動かした際の疼痛を確認します。
関節可動域と同じ22項目を対象とし、各項目0~2点で採点します。
| 部位 | 満点 |
|---|---|
| 上肢 | 24点 |
| 下肢 | 20点 |
| 合計 | 44点 |
5-1.採点方法
| 点数 | 判定 |
|---|---|
| 0点 | 運動中に強い痛み、または最終域で非常に強い痛みがある |
| 1点 | 軽度の痛みがある |
| 2点 | 痛みがない |
関節痛は、痛みが少ないほど高得点となります。
5-2.評価方法
関節可動域評価と同時に、疼痛の有無や程度を確認します。
対象者に痛みがあるかを尋ねながら、ゆっくりと他動運動を行います。
疼痛が生じた場合には、どの運動で、どの範囲から疼痛が出現したかを記録します。
5-3.評価時の注意点
① 疼痛を誘発しすぎない
疼痛が強い場合には、無理に最終可動域まで動かす必要はありません。
特に脳卒中後の肩関節では、亜脱臼、軟部組織障害、痙縮などが疼痛に関与する場合があります。
② 疼痛の原因を確認する
FMAは疼痛の程度を評価するものであり、疼痛の原因を診断するものではありません。
疼痛が認められた場合には、必要に応じて関節の状態や筋緊張、炎症などを追加評価します。
③ 疼痛の程度を補足する
FMAの関節痛は3段階の評価です。
そのため、詳細な疼痛の程度や経過を把握するには、NRS(Numerical Rating Scale)などを併用すると有用です。
6.評価結果の解釈
感覚、関節可動域、関節痛は、それぞれ異なる機能を評価しています。
| 評価領域 | 得点が低い場合に考えられる状態 |
|---|---|
| 感覚 | 触覚や位置覚の障害 |
| 関節可動域 | 他動関節可動域の制限 |
| 関節痛 | 他動運動時の疼痛 |
これらの得点を確認することで、運動障害に関与する要因を整理することができます。
ただし、FMAの得点だけでADL能力や歩行能力を直接判断することはできません。
臨床例①:位置覚障害と歩行の不安定性
下肢運動機能は比較的保たれているものの、足関節や母趾の位置覚が低下している場合、下肢の位置を把握しにくくなり、歩行時の足部接地やバランス制御に影響する可能性があります。
このような場合には、FMAの感覚評価に加えて、歩行観察やバランス評価を行います。
臨床例②:肩関節可動域制限と上肢運動
上肢の随意運動が改善していても、肩関節の可動域制限がある場合、上肢の挙上動作が制限されることがあります。
この場合、運動麻痺だけでなく、関節可動域制限の影響を考慮する必要があります。
臨床例③:疼痛による運動制限
関節痛が強い場合、随意運動が可能であっても、疼痛を避けるために運動範囲が小さくなる場合があります。
FMAの運動機能と関節痛を別々に評価することで、疼痛が運動に与える影響を検討しやすくなります。
7.FMA評価を実施する際の共通の注意点
FMAの感覚・関節可動域・関節痛を評価する際には、以下の点に注意します。
- 評価条件の統一: 姿勢、測定方法、刺激方法をできるだけ統一します。
- 非麻痺側との比較: 感覚や関節可動域の左右差を確認します。
- 認知機能への配慮: 失語症、注意障害、理解力低下が評価結果に影響する場合があります。
- 安全性の確保: 疼痛や関節の不安定性がある場合には無理な他動運動を避けます。
- 評価結果の記録: 合計点だけでなく、各領域の得点と特徴的な所見を記録します。
特に経時的な評価では、同じ評価条件で測定することが重要です。
8.まとめ
FMAの感覚・関節可動域・関節痛評価は、脳卒中後の運動障害に関連する機能を多面的に把握するために重要です。
感覚評価では触覚と位置覚、関節可動域評価では他動運動の制限、関節痛評価では他動運動時の疼痛を確認します。
それぞれの評価結果を運動機能やADL能力と組み合わせることで、対象者の問題点をより詳細に分析できます。
また、運動麻痺の回復と関節可動域・疼痛の変化は必ずしも一致しないため、各領域を独立して記録することが重要です。
FMAの結果を単なる合計点として扱うのではなく、各評価領域の特徴を把握し、リハビリテーションの目標設定や治療計画に活用することが求められます。
9.参考文献
- Fugl-Meyer AR, Jääskö L, Leyman I, Olsson S, Steglind S. The post-stroke hemiplegic patient. I. A method for evaluation of physical performance. Scandinavian Journal of Rehabilitation Medicine. 1975;7(1):13–31.
- University of Gothenburg. Fugl-Meyer Assessment:公式評価用紙・マニュアル.
- Shirley Ryan AbilityLab. Fugl-Meyer Assessment of Motor Recovery after Stroke.
掲載上の注意:本記事は従来の全体版FMAの構成に基づく解説です。採点基準の詳細や実施手順は、使用する版の公式評価用紙で照合してください。公式用紙の翻訳・転載や商用利用については、権利者の条件を確認する必要があります。
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