脳卒中後のリハビリテーションでは、手足が動くかどうかだけでなく、「どのように動かせるか」「どの部分に障害が残っているか」を把握する必要があります。
Fugl-Meyer Assessment(フューゲルマイヤー評価法:FMA)は、脳卒中後の感覚・運動機能などを評価する尺度です。運動機能に加えて、感覚、バランス、関節可動域、関節痛も含めて整理できます。
項目が多い評価ですが、まず全体の構成を押さえ、その後に各領域を理解すると見通しがよくなります。本記事では、FMA全体の構成、評価内容、採点の考え方、臨床での結果の活用を解説します。
※本記事は評価の概要を説明するもので、公式評価用紙や実施マニュアルの代わりにはなりません。実際の検査では、使用する版の評価用紙と標準化された手順を確認してください。
FMAとは
FMAは、1975年にFugl-Meyerらが報告した、脳卒中後の機能障害を評価する尺度です。特に運動領域は、共同運動やそこからの分離、手関節・手指の運動、協調性などを項目別に捉える点に特徴があります。[1][2]
ICFでは、運動領域は主に「心身機能」の評価に位置づけられます。食事や更衣の自立度、実生活での麻痺手の使用頻度を、そのまま表すものではありません。[2]
例えば、検査場面で手指を動かせても、食事で箸を使えるとは限りません。FMAで把握した機能と、実際の動作・生活場面の観察を組み合わせることが大切です。
FMA全体の構成と配点
原法のFMAは5領域、合計226点で構成されます。[1]
| 領域 | 主な評価内容 | 満点 |
| 運動機能 | 上肢・下肢の反射、随意運動、協調性など | 100点 |
| 感覚 | 触覚、位置覚 | 24点 |
| バランス | 座位・立位での保持や反応など | 14点 |
| 関節可動域 | 他動運動での可動域 | 44点 |
| 関節痛 | 他動運動に伴う痛み | 44点 |
| 合計 | 全領域 | 226点 |
ここで区別したいのは、「FMA全体」と「FMAの運動領域」です。
運動領域は上肢66点、下肢34点、合計100点です。論文や診療情報の「FMA上肢」は、通常、この上肢運動領域66点を指します。[2]
記録では「FMA 40点」だけでは評価した範囲がわかりません。「FMA-UE(上肢運動)40/66点」のように、領域と満点を併記しましょう。
運動機能:上肢66点
上肢運動領域は、次の4つに整理できます。[3]
| 区分 | 内容の概要 | 満点 |
| 上肢 | 反射、肩・肘・前腕の共同運動と分離した運動など | 36点 |
| 手関節 | 背屈位の保持、掌背屈、分回しなど | 10点 |
| 手 | 手指の屈伸、各種の把持 | 14点 |
| 協調性・スピード | 振戦、測定障害、運動時間 | 6点 |
| 合計 | 上肢運動領域 | 66点 |
肩・肘・前腕の評価
共同運動パターンでの動きと、複数の関節を選択的に動かす課題などを評価します。
着目するのは、単に手が目的の場所へ届いたかどうかだけではありません。肘を伸ばした状態で肩を動かせるか、前腕の回内・回外を行う際に姿勢を保てるかなど、課題ごとに決められた運動の条件を確認します。[3]
臨床では、課題の得点とあわせて、体幹の傾き、肩甲帯の挙上、痛みなども記録すると、動作を難しくしている要因を検討しやすくなります。ただし、補足した観察所見と、正式な採点条件は区別します。
手関節と手指の評価
手関節では、姿勢を保つ機能や繰り返し動かす機能を確認します。手では手指をまとめて曲げ伸ばしする運動と、物品を用いた把持を評価します。[3]
物を握れる場合でも、手関節の安定性や物を離す能力が十分とは限りません。上肢合計点だけでなく、手関節と手の内訳を残すことで、練習課題を検討しやすくなります。
協調性とスピードの評価
所定の反復運動を用いて、振戦、目標からのずれ、運動に要する時間などを評価します。時間だけが短くなっていても、正確さが低下していないかをあわせて観察することが必要です。[3]
運動機能:下肢34点
下肢運動領域は、反射と随意運動を中心とする28点、協調性・スピードの6点で構成されます。[4]
| 区分 | 内容の概要 | 満点 |
| 反射活動 | 所定の反射の誘発 | 4点 |
| 共同運動内の随意運動 | 屈筋・伸筋共同運動での動き | 14点 |
| 分離運動が一部出現する課題 | 座位での選択的な運動 | 4点 |
| 共同運動の影響が少ない課題 | 立位での選択的な運動 | 4点 |
| 正常反射活動 | 条件を満たした場合の反射の評価 | 2点 |
| 協調性・スピード | 振戦、測定障害、運動時間 | 6点 |
| 合計 | 下肢運動領域 | 34点 |
臥位・座位・立位で課題を行い、股関節、膝関節、足関節の運動を確認します。例えば、膝を曲げる課題では、股関節の動きが同時に生じるかといった点も関係します。[4]
下肢FMAは、歩行速度や歩行自立度を直接採点する検査ではありません。実際の歩行については、歩行観察、10m歩行、必要に応じたバランス評価などを組み合わせます。
感覚:24点
感覚領域では、上肢・下肢の触覚と位置覚を評価します。上肢12点、下肢12点の合計24点です。[3][4]
| 区分 | 触覚 | 位置覚 | 合計 |
| 上肢 | 4点 | 8点 | 12点 |
| 下肢 | 4点 | 8点 | 12点 |
触覚では決められた部位への刺激を、位置覚では関節の小さな位置変化を用います。視覚から答えがわからないようにし、非麻痺側との比較や所定の判定条件に従います。[3][4]
FMAの感覚項目だけで、痛覚、温度覚、識別性の感覚など、すべての感覚機能を把握できるわけではありません。訴えや動作上の問題に応じて追加評価を検討します。
バランス:14点
原法のバランス領域は、座位・立位での姿勢保持、座位での保護的な反応、片脚で支える能力などを評価する7項目、計14点です。[1]
ただし、上肢・下肢の運動機能に焦点を当てた公開評価用紙には、原法のバランス領域が含まれていない場合があります。「その用紙にバランス項目がない」ことと、「FMA全体にバランス領域がない」ことは区別しましょう。
転倒の危険がある課題では、安全確保を優先します。歩行中の姿勢調整や転倒リスクまで詳しく捉えたい場合には、目的に合ったバランス検査や動作観察を追加します。
関節可動域:44点
関節可動域の領域では、麻痺側の関節を他動的に動かし、制限の程度を評価します。上肢24点、下肢20点の合計44点です。[3][4]
ここでは、「本人が動かせない」ことと「他動でも動かせない」ことを分けて考えます。自動運動が乏しい場合も、他動可動域が保たれているのか、拘縮などの制限があるのかで、課題の整理が変わります。
FMAの得点とは別に、必要な関節の角度を記録しておくと、経過や日常動作への影響を具体的に確認できます。
関節痛:44点
関節痛は、他動運動に伴う痛みを評価する領域です。上肢24点、下肢20点の合計44点で、痛みが少ないほど高得点になります。[3][4]
痛みを確認するために、無理に可動域を広げることは避けます。痛みが出た部位や動き、出現する範囲を補足し、動作や運動課題への影響も考えます。
安静時痛や日常生活での痛みの強さを詳しく知りたい場合は、別途聴取し、必要に応じてNRSなどを併用します。
採点の基本と注意点
多くの項目は0・1・2点の3段階です。随意運動課題では、おおまかに「実施できない」「部分的に実施できる」「十分に実施できる」と理解すると全体像をつかみやすくなります。
ただし、この説明だけで全項目を採点することはできません。反射の誘発をみる一部の項目は0点または2点で、正常反射活動を評価する項目には実施条件があります。感覚や痛みも、それぞれ独自の判定基準に従います。[3][4][5]
実施条件をそろえる
再評価で変化を比較するには、使用する版、開始姿勢、指示、物品、許容される支持や介助などをそろえます。2026年には運動領域の標準化国際マニュアルも公表されています。[6]
評価者が変わる場合は、迷いやすい項目の判断を共有するとともに、正式なマニュアルに立ち戻って確認します。
痛みや理解の問題を補足する
課題ができなかった理由は、運動麻痺だけとは限りません。痛み、関節可動域制限、疲労、注意の低下、指示理解の困難などが、検査結果に影響している可能性があります。
正式な採点規則に従ったうえで、結果の解釈に必要な背景を所見として残しましょう。実施できなかった項目を自己流で補完したり、残りの点から満点を換算したりせず、使用版の取り扱いを確認します。
結果は「合計点」と「内訳」で読む
FMAの結果を臨床へつなげる際は、次の3点を確認します。
1. どの領域・課題で得点が低いか
2. 前回からどの課題が変化したか
3. その変化が実際の動作や生活にどう関係しているか
例えば、上肢運動の得点が改善していても、手関節や手の項目に変化が少ない場合は、手を使う課題が引き続き難しい可能性があります。実際の食事、更衣、物品操作などを観察して検討します。
反対に、FMAの変化が小さくても、環境調整や動作方法の工夫によって生活動作が行いやすくなる場合があります。機能の変化と生活上の成果の両方を確認する視点が必要です。
点数の差をそのまま能力の差と考えない
FMAは順序尺度です。異なる患者や異なる得点帯で、同じ「5点の差」が必ず同じ能力差を表すとは限りません。
また、「何点上がれば意味のある改善か」を考えるときは、上肢・下肢の別、発症後の時期、対象者の重症度、研究条件などを確認します。特定の研究の基準値を、FMA全体やすべての患者へ一律に当てはめないことが大切です。
他の評価との使い分け
以下は、評価目的を整理するための実務上の目安です。それぞれの正式な実施方法は、個別の資料で確認してください。
| 知りたいこと | 組み合わせる評価・観察の例 |
| 運動麻痺の大まかな回復段階 | Brunnstrom Stage |
| 感覚運動機能などの項目別の状態 | FMA |
| 運動・感覚・体幹などを含む脳卒中の機能障害 | SIAS |
| 生活動作の自立度や介助量 | FIM、Barthel Index |
| 上肢を用いた物品操作 | ARATなど |
| 歩行やバランスの実際 | 歩行観察、10m歩行、BBSなど |
FMAで「機能のどこに課題があるか」を整理し、活動や参加の評価で「生活で何が難しいか」を確かめると、目標設定へつなげやすくなります。
記録例
以下は記載方法を示す架空の例です。
FMA-UE(上肢運動)35/66点。
内訳:上肢22/36点、手関節5/10点、手4/14点、協調性・スピード4/6点。
肩の運動課題で体幹の側屈を認めた。手指の開排と物品を離す動作に困難があり、食事場面での麻痺手の使用状況も確認する。
使用版、検査日、検査者、痛みや疲労などの実施条件を併記する。
点数を記録するだけで終わらず、動作観察と結びつけた所見を残すことが重要です。
まとめ
FMAは、脳卒中後の機能障害を項目別に把握する評価です。全体は226点ですが、上肢66点・下肢34点の運動領域を用いる場合も多いため、評価した範囲を明示します。
結果は合計点だけで判断せず、各領域の内訳と動作の特徴を確認し、日常生活での活動や参加の評価と組み合わせて活用しましょう。
参考文献・評価資料
1. Fugl-Meyer AR, Jääskö L, Leyman I, Olsson S, Steglind S. The post-stroke hemiplegic patient. I. A method for evaluation of physical performance. Scand J Rehabil Med. 1975;7(1):13–31.
https://www.gu.se/sites/default/files/2020-11/fugl-meyer-1975-the_post-stroke-hemiplegic-patient.pdf
2. University of Gothenburg. Fugl-Meyer Assessment.
3. University of Gothenburg. Fugl-Meyer Assessment—Upper Extremity, English protocol.
https://www.gu.se/sites/default/files/2021-01/FM-UE%20eng%20190303%20PROTOCOL.pdf
4. University of Gothenburg. Fugl-Meyer Assessment—Lower Extremity, English protocol.
https://www.gu.se/sites/default/files/2024-06/FM-LE-eng-19-12-12-protocol.pdf
5. Fugl-Meyer Assessment—Japanese version(2024-06-09).
https://www.gu.se/sites/default/files/2024-08/fugl-meyer-assessment-japanese-2024-06-09.pdf
6. Hervé-Colas J, et al. Standardized International Manual of the Fugl-Meyer Assessment of Motor Function After Stroke. Neurorehabil Neural Repair. 2026. doi:10.1177/15459683251412300.
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