トレッドミル負荷試験は、動くベルトの上を歩行または走行し、速度や傾斜を変えて運動時の反応を調べる検査です。心電図、心拍数、血圧、自覚症状などを確認し、心筋虚血の評価や運動耐容能の把握、運動処方に役立てます。
本記事では、リハビリテーションに関わる医療職に向けて、負荷の設定、代表的なプロトコル、検査の流れ、結果の解釈、安全管理を解説します。到達した負荷だけでなく、検査を終えた理由と回復期の反応まで確認することが大切です。
トレッドミル負荷試験で何がわかるか
安静時には現れない胸部症状、心電図変化、不整脈、血圧反応などを運動中に評価します。また、どの程度の負荷まで継続できるかを確認し、治療前後の変化や日常生活・運動療法の負荷設定を検討します。検査の目的により、心電図を中心に評価する場合と、呼気ガス分析などを組み合わせる場合があります。[1,2]
心肺運動負荷試験との違い
トレッドミルは「運動負荷をかける装置」、心肺運動負荷試験(CPX/CPET)は「呼気ガス分析を含めた検査方法」を示します。トレッドミルに呼気ガス分析装置を組み合わせれば、酸素摂取量や換気量などを評価できます。心電図だけを測定する検査では、peak VO₂や嫌気性代謝閾値(AT)を直接評価することはできません。[1]
負荷量は速度と傾斜で設定する
トレッドミルの負荷は、主に速度(km/hまたはmph)と傾斜(%)で設定します。エルゴメーターで一般的なW(ワット)による仕事率の表示とは異なり、トレッドミルでは速度・傾斜・継続時間を組み合わせて記録します。
傾斜10%は角度10度という意味ではありません。水平方向に100m進んだときに10m高くなる勾配です。同じ速度でも傾斜が大きくなると、通常は運動負荷が増加します。
自転車をこぐ方法との違いについては、「エルゴメーター負荷試験」で詳しく解説しています。
METsは推定値か実測値かを確認する
METsは運動強度を表す指標で、慣用的には1 METを酸素摂取量3.5 mL/kg/分として扱います。装置が速度や傾斜などから表示する推定METsは、その人の酸素摂取量を実際に測った値とは区別します。推定式、歩行の効率、手すりへの依存などにより誤差が生じるため、「推定○METs」と記載すると情報が明確になります。[2,5]
代表的な負荷プロトコル
プロトコルとは、負荷をどの程度から始め、いつ、どれだけ増やすかを定めた手順です。全員に同じ方法を適用するのではなく、検査目的と予想される運動能力、安全な歩行の可否を踏まえて選びます。
Bruce法
Bruce法は、原則として3分ごとに速度と傾斜を段階的に上げる方法です。下表に代表的な設定を示します。速度のkm/h表示はmphからの換算概数です。[3]
| 段階 | 各段階の時間 | 速度 mph | 速度 km/h | 傾斜 % |
| 1 | 3分 | 1.7 | 約2.7 | 10 |
| 2 | 3分 | 2.5 | 約4.0 | 12 |
| 3 | 3分 | 3.4 | 約5.5 | 14 |
| 4 | 3分 | 4.2 | 約6.8 | 16 |
| 5 | 3分 | 5.0 | 約8.0 | 18 |
| 6 | 3分 | 5.5 | 約8.9 | 20 |
| 7 | 3分 | 6.0 | 約9.7 | 22 |
第1段階から傾斜10%があるため、高齢者、低体力者、歩行障害のある人には開始負荷が高い場合があります。表の最終段階まで実施することが検査の目標ではありません。
修正Bruce法
一般的な修正Bruce法では、標準Bruce法の前に、速度1.7 mph(約2.7 km/h)・傾斜0%で3分、同じ速度・傾斜5%で3分の低負荷段階を追加します。その後、標準Bruce法の第1段階に進みます。段階の番号の付け方は装置や施設で異なるため、番号だけでなく実際の設定も確認します。[2]
Naughton法とランプ法
Naughton法は、比較的低い負荷から小さな段階で増量する方法です。修正版もあるため、使用する装置に登録された速度・傾斜・段階時間を確認します。ランプ法は、速度や傾斜を小刻み、または連続的に増やす方法で、対象者に合わせた負荷調整に用いられます。[2]
漸増負荷部分が8~12分程度となるような設定は一つの目安ですが、検査目的や対象者によって調整します。この時間に到達するために、症状や異常所見が出ても運動を続けるものではありません。[2]
検査前に確認すること
検査を依頼した医師の指示と施設の手順に沿って、適応・禁忌、既往歴、最近の症状、安静時心電図・血圧、服薬状況、歩行能力、転倒リスクを確認します。運動負荷試験は、救急対応が可能な設備と人員体制のもとで実施します。
絶対的禁忌の代表例には、発症2日以内の急性心筋梗塞、治療で制御されていない不安定狭心症、血行動態に影響する制御不良の不整脈、症候性重症大動脈弁狭窄症、制御されていない症候性心不全、急性肺塞栓、急性心筋炎・心膜炎、急性大動脈解離などがあります。ここに示したものは全項目ではなく、実施の可否は医師が判断します。[1]
β遮断薬などは心拍応答に影響します。服薬の継続・休薬は検査目的により変わるため、自己判断で中止せず、処方医・検査担当医の指示を確認します。服薬条件は結果の解釈や再検査時の比較にも必要です。
検査の基本的な流れ
検査前の説明と安静時評価
目的と手順、症状の伝え方、終了の合図を説明します。安静時の心拍数・血圧・心電図を記録し、必要に応じてSpO₂も確認します。装置への乗降、ベルト上の歩行、緊急停止時の対応を確認し、低速で練習する時間を設けます。
運動中の観察と記録
選択したプロトコルに沿って負荷を増やし、心電図を監視します。血圧は各段階など施設で定めたタイミングで測定し、胸部症状、息切れ、下肢疲労、顔色、冷汗、歩行の安定性を確認します。Borg RPEは運動全体のきつさ、修正Borgスケールは息切れなど、評価する内容を説明して記録します。
運動全体のきつさは「Borg RPEスケール」、息切れの程度は「修正Borgスケール」を用いて記録します。
終了後の回復期評価
終了後も心拍数・血圧・心電図・自覚症状を継続して確認します。異常のない通常の終了では、施設手順に沿って低負荷の歩行などでクールダウンを行います。一方、重い症状や血行動態の異常で中止した場合は、歩行継続よりも安全確保と医療対応を優先します。回復姿勢やクールダウンの有無も記録します。
検査を中止する主な状況
中止は自覚症状と客観的所見を合わせて判断します。次に挙げるものは代表例であり、絶対的・相対的中止適応の詳細は採用する基準と医師の指示で確認します。[2]
- 本人から中止の希望がある。
- 中等度以上の胸痛、めまい、失神前症状、蒼白などが現れる。
- 持続性心室頻拍など、危険な不整脈や重要な心電図変化が生じる。
- 負荷増加に伴い収縮期血圧が低下するなど、血行動態に問題がある。
- 著しい息切れ、疲労、下肢痛、歩行不安定がある。
- 心電図や血圧を適切に測定できない、転倒リスクが高まるなど、安全な監視・継続が困難になる。
AHAの2013年声明では、収縮期血圧250 mmHg超または拡張期血圧115 mmHg超は、運動負荷試験の相対的中止適応の例です。これらは「その数値まで運動してよい」という許容値ではありません。基礎疾患や症状によっては、それより低い血圧でも中止が必要です。また、日々の運動療法の中止基準と同一ではありません。[2]
予測最大心拍数の85%は、負荷の十分性を考える際の目安として用いられることがあります。ただし、症候限界性試験を85%到達だけで一律に終了する基準にはしません。到達しない場合も、薬剤、疾患、努力度、中止理由を踏まえて解釈します。[4]
結果を読むときのポイント
到達負荷と中止理由を一緒に読む
記録する基本項目は、プロトコル名、運動時間、最終速度・傾斜、各段階の完遂状況、推定METsまたは実測酸素摂取量、心拍数・血圧、心電図所見、自覚症状、中止理由、回復期の経過です。
たとえば、下肢痛や歩行不安定による早期終了では、心肺機能の限界まで到達していない可能性があります。「短時間で終わったから心肺機能が低い」と即断せず、何が運動を制限したかを確認します。
心電図だけで診断を決めない
水平型・下降型のST低下は心筋虚血を疑う所見の一つですが、安静時心電図異常、脚ブロック、ペーシング、薬剤などにより判定が難しい場合があります。負荷が不十分な場合も含め、変化がないことだけで虚血を否定することはできません。医師が症状や他の検査と合わせて判断します。[3]
回復期と再検査の条件を確認する
運動後の心拍低下は、回復中の歩行の有無や座位・立位などの姿勢によって変わります。再検査では、プロトコル、服薬、手すり使用、回復方法などをできるだけそろえて比較します。条件が変わった場合は、その内容も結果に添えます。
手すりの使用が結果に与える影響
手すりに強くつかまったり、上肢で体重を支えたりすると、同じ速度・傾斜でも身体にかかる負荷が変わり、推定運動能力を過大評価する可能性があります。手すりの影響を調べた研究もあり、使用の有無と支持の程度は記録しておきたい項目です。[5]
歩行が不安定な人に、評価のためとして無理に手すりを離してもらうことは避けます。安全を確保し、強い支持が必要な場合は結果の解釈に限界があることを明記します。
他の運動耐容能評価との使い分け
| 評価 | 主な負荷設定 | 評価で確認したい点 |
| トレッドミル負荷試験 | 速度と傾斜 | 運動中の循環応答、症状、到達負荷 |
| 自転車エルゴメーター負荷試験 | 仕事率 W | 座位での循環応答、到達負荷 |
| 6分間歩行試験 | 本人のペースで6分間歩行 | 歩行距離と症状の変化 |
| ISWT | 音に合わせて速度を漸増 | 外部ペースによる歩行能力 |
| ESWT | 設定速度で持続歩行 | 一定負荷を続けられる時間 |
歩行障害、下肢痛、認知面、転倒リスク、検査場所などを踏まえて方法を選びます。異なる試験の運動時間や到達負荷は、そのまま同じ尺度として比較できません。
リハビリテーションへの活用
検査結果から、症状が出現した負荷、血圧・心拍の応答、運動を制限した要因を共有し、医師の運動処方に沿って練習内容を具体化します。検査で到達した最大負荷を、そのまま毎日の運動強度に設定することは避けます。
経過を見る際は、最大負荷の変化に加え、「同じ負荷で息切れが軽くなったか」「歩行が安定したか」「回復に要する時間が変わったか」なども確認します。移動能力やADLの評価と組み合わせることで、日常生活に結び付いた解釈ができます。
参考文献
[1] 日本循環器学会・日本心臓リハビリテーション学会. 2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン. 公開PDFは2026年6月20日更新表示. https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Makita.pdf
[2] Fletcher GF, et al. Exercise Standards for Testing and Training: A Scientific Statement From the American Heart Association. Circulation. 2013;128:873–934. doi:10.1161/CIR.0b013e31829b5b44. https://doi.org/10.1161/CIR.0b013e31829b5b44
[3] Yamagishi M, et al. JCS 2018 Guideline on Diagnosis of Chronic Coronary Heart Diseases. Circulation Journal. 2021;85:402–572. Bruce法の設定はTable 6を参照し、km/hを換算して記載. https://www.jstage.jst.go.jp/article/circj/85/4/85_CJ-19-1131/_html/-char/en
[4] Fihn SD, et al. 2012 ACCF/AHA/ACP/AATS/PCNA/SCAI/STS Guideline for the Diagnosis and Management of Patients With Stable Ischemic Heart Disease. doi:10.1016/j.jacc.2012.07.013. https://www.jacc.org/doi/10.1016/j.jacc.2012.07.013
[5] Handrail support interference in cardiac autonomic modulation adjustments in young adults during maximal exercise testing. Scientific Reports. 2020. doi:10.1038/s41598-020-68155-3. 若年成人を対象とした研究であり、すべての患者群に同じ影響量があることを示すものではない. https://www.nature.com/articles/s41598-020-68155-3
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