12誘導心電図を見ても、どの誘導から、何を確認すればよいのか迷うことがあります。まず大切なのは、毎回同じ順番で読み、気になる一つの波形だけに注意を奪われないことです。
本記事では、成人の安静時標準12誘導心電図を対象に、誘導の意味、読む順番、基本的な数値の目安を解説します。PT・OT・STが診療情報を理解し、患者さんの状態の変化を医師・看護師と共有するための入門記事です。疾患ごとの診断基準や治療判断は、関連する各記事で扱います。
12誘導心電図は何を見ているのか

心電図は、心筋の電気的な興奮と回復を体表から記録したものです。心臓の収縮力や心拍出量を直接測定する検査ではありません。正常に見える波形があっても、それだけで心機能が正常とは判断できません。
標準12誘導心電図は、四肢4個と胸部6個の合計10個の電極から、12通りの電気的な見方を作ります。 「電極」は貼り付ける部品、「誘導」は電位差を記録する見方であり、12個の電極を付けるという意味ではありません。[1]
| 種類 | 誘導 | 主な見方 |
| 四肢誘導 | Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・aVR・aVL・aVF | 心臓の電気活動を主に前額面から見る |
| 胸部誘導 | V1~V6 | 心臓の電気活動を主に水平面から見る |
電気的な興奮が誘導の陽極へ向かうと上向き、遠ざかると下向きの波形として現れるのが基本です。誘導によって波形の向きが違うのは、同じ電気活動を異なる方向から見ているためです。aVRで主な波形が下向きであること自体は、異常を意味しません。
誘導と心臓の部位の関係

ST・T波などの変化は、解剖学的に近い部位を反映する誘導をまとめて確認します。以下は入門上の対応です。各誘導が心筋の一部だけを独立して見ているわけではなく、この表だけで責任冠動脈や疾患を確定することはできません。[4]
| 部位の目安 | 主な誘導 | 確認する視点 |
| 下壁 | Ⅱ・Ⅲ・aVF | 3誘導の変化を合わせて確認 |
| 側壁 | Ⅰ・aVL・V5・V6 | 四肢誘導と胸部誘導を合わせる |
| 中隔側 | V1・V2 | 前胸部の変化としてV3・V4とも比較 |
| 前壁 | V3・V4 | V1~V6の連続した変化も確認 |
右室や後壁の評価には、必要に応じて右側胸部誘導やV7~V9などを追加します。標準12誘導だけですべての虚血を捉えられるわけではありません。[5]
12誘導心電図を読む順番
読む順番は一つに決まっていません。ここでは見落としを減らすため、次の9段階で統一します。ただし、胸痛、失神、冷汗、意識障害、循環不安定などがある場合は、全項目を読み終えることを待たずに応援要請・報告を行います。
| 順番 | 確認項目 | 最初に見るところ |
| 1 | 患者情報と記録条件 | 氏名・日時・症状・速度・感度・ノイズ |
| 2 | 心拍数 | R–R間隔と記録時間 |
| 3 | リズム | 規則性・P波とQRS波の関係 |
| 4 | 電気軸 | Ⅰ・aVF、必要に応じてⅡ |
| 5 | P波とPQ時間 | Ⅱ・V1などで形と伝導時間 |
| 6 | QRS波 | 幅・形・Q波・胸部誘導のR波の推移 |
| 7 | ST部分とT波 | 全誘導、特に関連する誘導の組合せ |
| 8 | QT時間とQTc | 測定値・補正式・薬剤や電解質 |
| 9 | 過去の記録と臨床情報 | 新規変化か、症状と一致するか |
1 患者情報と記録条件を確認する
最初に、本人の記録か、いつ、どのような状況で記録されたかを確認します。安静時と運動直後、症状がある時とない時では、同じ患者さんでも波形や心拍数が変わります。
標準的な記録速度は25 mm/秒、感度は10 mm/mVです。この条件では、横の1小マスが0.04秒、5小マスの1大マスが0.20秒、縦の1小マスが0.1 mVとなります。速度や感度が違う場合、マス目の意味も変わるため、印字された設定を必ず確認します。[1]
体動、筋電図、基線の揺れ、電極の接触不良は判読を難しくします。胸部電極の位置ずれや四肢電極の付け間違いでも波形は変化します。見慣れない変化があれば、患者さんの状態と同時に記録条件を確認し、必要な再記録を依頼します。
胸部電極の標準位置
| 電極 | 装着位置 |
| V1 | 第4肋間 胸骨右縁 |
| V2 | 第4肋間 胸骨左縁 |
| V3 | V2とV4の中間 |
| V4 | 第5肋間 左鎖骨中線 |
| V5 | V4と同じ水平線上 左前腋窩線 |
| V6 | V4と同じ水平線上 左中腋窩線 |
V5・V6は、肋間に沿って下げるのではなく、V4と同じ高さに置きます。モニター用の体幹への四肢電極配置と、標準12誘導の記録は条件が異なることにも注意します。
2 心拍数を確認する
R波から次のR波までの間隔をR–R間隔といいます。リズムが規則的な場合、25 mm/秒の記録では「心拍数 ≒ 300 ÷ R–R間隔の大マス数」で概算できます。例えば大マス4個なら約75回/分です。
不規則な場合は、実際に10秒間連続した同じ誘導のQRS波を数え、6倍すると平均心拍数を概算できます。短時間の記録では誤差が大きくなるため、必要に応じて長い記録を確認します。
成人安静時では60~100回/分が一般的な目安です。ただし、薬剤、運動習慣、発熱、疼痛、脱水などの影響があります。この範囲から外れることだけで緊急性や運動の可否は決まりません。
3 リズムを確認する
まずR–R間隔がほぼ一定か、不規則かを見ます。次に、P波があるか、各QRS波の前にP波があるか、P波とQRS波が1対1で対応するか、PQ時間がほぼ一定かを確認します。Ⅱ誘導の長い記録とV1は、P波を探す際に役立ちます。
洞調律では、通常はⅡ誘導のP波が上向きでaVRでは下向きとなり、P波に続いてQRS波が現れます。「規則的だから洞調律」とは限らず、P波との関係まで見ることが大切です。
P波が明瞭でなくR–R間隔が不規則な場合は心房細動などを考えますが、ノイズや期外収縮でも不規則に見えることがあります。一部の波形だけで診断せず、長い記録と医師の評価を確認します。
印刷形式によっては、横に並ぶ誘導が同じ時刻を示していません。誘導の切り替わりをまたいでR–R間隔を測らず、時刻が連続するリズムストリップなどを用います。
4 電気軸を確認する
電気軸は、心室全体の興奮が前額面でどの方向へ向かうかを表します。成人のQRS電気軸の一般的な正常範囲は−30~+90度です。まずⅠとaVFで、QRS波全体が上向き優位か下向き優位かを確認します。[2]
| Ⅰ誘導 | aVF誘導 | 概略の読み方 |
| 上向き優位 | 上向き優位 | 0~+90度で正常範囲 |
| 上向き優位 | 下向き優位 | Ⅱ誘導も確認する |
| 下向き優位 | 上向き優位 | 右軸偏位を考える |
| 下向き優位 | 下向き優位 | 極端な軸偏位を考える |
Ⅰが上向き、aVFが下向きでも、Ⅱが上向きなら概ね−30~0度で正常範囲に含まれます。Ⅱも下向きなら−30度より左への偏位を考えます。陽性と陰性が同程度の境界例は、この簡易分類だけで判定せず、機器の軸角度と医師の所見を確認します。
電気軸は体格、心臓の位置、伝導障害などでも変わります。左軸偏位だけで左室肥大、右軸偏位だけで右心負荷と決めないようにします。
5 P波とPQ時間を確認する
P波は心房の興奮を表します。形、幅、高さを見ます。Ⅱ誘導ではP波の有無や形を、V1では二相性の成分などを確認します。P波の変化は心房負荷などの手掛かりになりますが、単独で確定診断はできません。
PQ時間はPR時間とも呼ばれ、P波の始まりからQRS波の始まりまでを測ります。Q波がない場合は、P波の始まりからR波の始まりまでを測ります。成人では0.12~0.20秒が一般的な目安です。[6]
延長、短縮、拍ごとの変動、P波の後にQRS波が出ない箇所がないかを確認します。PQ時間の延長があっても、その一項目だけでリハビリ中止とは判断せず、症状、心拍数、房室伝導の状態、医師の指示を合わせて確認します。
6 QRS波の幅と形を確認する
QRS波は心室の興奮を表します。まず幅を見て、その後に形や振幅を確認します。成人ではQRS幅120 ms(0.12秒)以上を幅広いQRSの目安とし、脚ブロック、心室起源の興奮、心室ペーシングなどの可能性を考えます。120 ms未満でも正常とは限らず、100~119 msの軽度延長や波形の形態にも注意します。[2]
Q波とR波の推移
Q波はQRS波の最初の下向き成分、R波は最初の上向き成分、S波はR波の後の下向き成分です。小さなQ波は正常でも見られるため、「Q波がある=心筋梗塞」ではありません。幅、深さ、出現する誘導、隣接誘導との組合せで評価します。
胸部誘導では一般に、V1からV4~V5に向かってR波が大きくなり、S波は小さくなります。R波とS波の大きさが近づく移行帯は、多くはV3~V4付近です。ただし個人差があり、R波の増高不良だけで前壁梗塞とは診断できません。電極位置や既存の伝導障害も確認します。
振幅が大きい場合は心室肥大などを検討しますが、体格や胸壁の影響を受けます。心電図の電位だけで心臓の大きさや収縮力は判定できません。
7 ST部分とT波を確認する
ST部分はQRS波の終わりからT波の始まりまで、T波は心室の再分極を反映します。ST部分は、原則としてTP部分などの基線を基準に、上昇・低下の有無、程度、形、分布を確認します。QRS波とST部分の境目がJ点です。[3]
Ⅱ・Ⅲ・aVFなど、関連する誘導をまとめて見ます。一つの誘導の小さな変化だけで判断せず、反対側に相当する誘導の変化や過去の記録も確認します。ST上昇には急性虚血以外の原因があり、ST低下やT波陰転も虚血だけに特異的な所見ではありません。[4]
ST上昇の診断閾値は、誘導、年齢、性別などで異なります。すべての誘導に一律の「何mm以上なら心筋梗塞」という基準は使えません。脚ブロック、心室肥大、ペーシングなどでは二次性のST・T変化も生じます。
新たな胸部症状、冷汗、悪心、呼吸困難などに新規のST・T変化を伴う場合は、緊急の評価が必要です。一方で、初回心電図に明らかな異常がなくても急性冠症候群は除外できません。症状が続く場合の反復記録や追加評価は医療チームで判断します。[5]
8 QT時間とQTcを確認する
QT時間は、QRS波の始まりからT波の終わりまでです。心拍数によって変わるため、心拍数で補正したQTcも確認します。機器に表示されるQTcは便利ですが、補正式、T波終末の検出、ノイズなどによって値が変わります。[3]
一般に成人のQTcは男性450 ms以上、女性460 ms以上を延長の目安とすることがありますが、基準や補正式によって扱いが異なります。500 ms以上は特に注意を要する所見です。境界値だけで診断やリハビリの可否を決めず、医師の評価を確認します。
薬剤、低カリウム血症・低マグネシウム血症などの電解質異常、徐脈にも注意します。頻脈・徐脈時の補正の偏り、不整脈による測定の不安定さ、幅広いQRSによるQT延長もあるため、自動解析値だけで判断しません。
9 過去の心電図と患者さんの状態を合わせて読む
最後に「以前からある所見か」「今回新たに出現した所見か」を確認します。比較するときは速度、感度、電極位置、心拍数などの条件も見ます。自動解析の診断名は参考情報であり、医師の確定所見とは区別します。
胸痛、動悸、息切れ、めまい、失神の有無と出現時刻、血圧、SpO₂、意識状態、服薬、採血結果、基礎疾患を合わせて評価します。心電図の変化と症状が同時に生じたかが、重要な情報になります。
リハビリ場面でどう活用するか
開始前には、安静時の心拍数・調律、既知の伝導障害や虚血性変化、医師が定めた運動負荷や中止基準を確認します。過去の心電図を知っておくと、運動中の変化を共有しやすくなります。
運動中のモニター心電図は調律の連続監視に役立ちますが、少数誘導のモニターから標準12誘導と同じ範囲の評価ができるわけではありません。また、運動中のノイズを不整脈やST変化と誤認することがあります。症状と脈拍・血圧なども確認します。
胸部症状、失神・意識変化、血圧低下や冷汗を伴う状態、持続する頻拍などを認めた場合は、運動を中断して患者さんの安全を確保し、医師・看護師へ直ちに報告します。反応がなく普段どおりの呼吸がない場合は、施設の救急手順に従って応援要請、CPR、AEDを進めます。心電図の詳しい判読を待つ場面ではありません。
報告では変化を具体的に伝える
例えば「歩行開始3分後に胸部圧迫感と冷汗が出現。運動を中断し、心拍数は開始前76回/分から118回/分、血圧は128/72から94/60 mmHgへ変化。モニター波形に開始前と異なる変化が見られるため確認をお願いします」と、症状、負荷、時刻、数値の変化を伝えます。診断名を推測して断定するより、観察した事実を共有することが重要です。
よくある疑問
どの誘導から見ればよいですか
最初に全体を見てから、リズムはⅡ誘導の長い記録やV1、電気軸はⅠ・aVF・Ⅱ、R波の推移はV1~V6というように目的に合わせます。最終的には全12誘導を確認し、一つの誘導だけで完結させません。
心拍数が正常なら安心ですか
心拍数が正常範囲でも、虚血性変化や伝導障害などが存在することがあります。心拍数は確認項目の一つであり、リズム、波形、症状、循環状態を合わせて判断します。
自動解析で正常と表示されればよいですか
自動解析にも見落としや誤判定があります。正常表示があっても症状や新規変化を優先し、疑わしい場合は医師の確認につなげます。
まとめ
12誘導心電図は、患者情報と記録条件を確かめてから、心拍数、リズム、電気軸、P波とPQ時間、QRS波、ST・T波、QT時間を順に確認します。最後に過去の記録と症状を合わせて読むことで、所見の意味を捉えやすくなります。リハビリでは、波形の診断名を覚えることに加え、新しい変化を捉えて具体的に報告することが大切です。
参考文献
[1] Kligfield P, et al. 2007. ECG standardization Part I. Circulation. 115:1306–1324.
https://doi.org/10.1161/CIRCULATIONAHA.106.180200
[2] Surawicz B, et al. 2009. ECG standardization Part III. Circulation. 119:e235–e240.
https://doi.org/10.1161/CIRCULATIONAHA.108.191095
[3] Rautaharju PM, et al. 2009. ECG standardization Part IV. Circulation. 119:e241–e250.
https://doi.org/10.1161/CIRCULATIONAHA.108.191096
[4] Wagner GS, et al. 2009. ECG standardization Part VI. Circulation. 119:e262–e270.
https://doi.org/10.1161/CIRCULATIONAHA.108.191098
[5] Gulati M, et al. 2021. Guideline for the Evaluation and Diagnosis of Chest Pain. Circulation. 144:e368–e454.
https://doi.org/10.1161/CIR.0000000000001029
[6] 日本大学医学部附属板橋病院 臨床検査部 循環機能検査室 基準値・基準範囲
https://www.itabashi.med.nihon-u.ac.jp/division/clinical_laboratory/laboratories/circulatory_range
資料確認日 2026年11月6日。
数値は成人の一般的な目安であり、小児、競技者、ペースメーカー使用例などにはそのまま適用しません。
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