脳卒中後の上肢を評価するときには、関節が動くか、筋力があるかだけでなく、「物をつかむ」「つまむ」「目的の場所へ運ぶ」といった動作を、どの程度行えるかを確認することが大切です。
ARAT(Action Research Arm Test)は、物品操作などの課題を通して、上肢の活動能力を評価する検査です。
この記事では、ARATの構成、採点の考え方、結果の見方、臨床で使用する際の注意点を解説します。
ARATとは
ARATは、主に脳卒中後の上肢の評価に用いられる観察式の検査です。
対象者に決められた課題を行ってもらい、その遂行状況を採点します。ICFでは、標準的な環境で動作を行う「活動の能力」に位置づけられます。
4領域・19項目で構成され、各項目を0~3点、合計0~57点で評価します。得点が高いほど、検査課題を良好に遂行できることを示します。
ARATの評価内容
ARATは、次の4領域から構成されています。
| 領域 | 項目数 | 配点 | 評価する課題の概要 |
|---|---|---|---|
| Grasp:把握 | 6項目 | 0~18点 | 大きさや形の異なる物品をつかみ、移動する |
| Grip:握り | 4項目 | 0~12点 | コップや筒状物品などを扱う |
| Pinch:つまみ | 6項目 | 0~18点 | 小さな物品を、指定された指の組み合わせでつまむ |
| Gross movement:粗大運動 | 3項目 | 0~9点 | 手を頭部や口元へ運ぶ |
| 合計 | 19項目 | 0~57点 | 上肢の課題遂行能力を評価する |
把握やつまみだけでなく、物品への到達、持ち上げ、移動、手放しなどを含めて確認できる点が特徴です。
ただし、表は評価内容の概要です。使用物品の寸法や配置、指の組み合わせ、課題の成立条件は、標準化された手順で確認します。
採点方法
各項目を、課題の達成状況・所要時間・動作の質から採点します。
| 得点 | 採点の基本的な考え方 |
|---|---|
| 3点 | 規定の時間内に、正常な方法で課題を完了できる |
| 2点 | 課題を完了できるが、時間がかかる、または動作に大きな困難がある |
| 1点 | 課題の一部を行える |
| 0点 | 課題のどの部分も行えない |
Yozbatiranらの標準化手順では、正常な遂行の時間基準として5秒、課題を試みる上限として60秒が示されています。
速く終われば必ず3点になるわけではなく、動作の質や姿勢も判定に含まれます。また、1点に該当する動作の条件などは項目によって異なるため、共通の表だけで採点しないことが大切です。
実施時の注意点
評価条件をそろえる
経過を比較するには、使用物品、机・椅子、物品の配置、開始姿勢、指示方法などをそろえます。
物品の大きさや配置が変わると、課題の難易度も変わる可能性があります。施設内でも、使用する手順書と採点基準を共有しましょう。
項目の省略方法を統一する
ARATには、項目の成績に応じて一部を省略する原法の方法と、全項目を実施する方法があります。
経過観察や評価者間の比較では、どちらの方法を採用したかを明確にし、同じ手順で実施することが重要です。
運動障害以外の影響も確認する
課題ができないときには、麻痺だけでなく、疼痛、感覚障害、視覚的な問題、指示理解の困難などが関係していないかを確認します。
標準手順から変更した場合や、十分な評価が難しかった場合には、その条件と理由を記録します。
結果の見方
合計点で全体の経過を把握する
合計点は、上肢の課題遂行能力の経過を把握する指標になります。
ただし、ARATは順序尺度であり、**10点から20点への変化と、40点から50点への変化が、同じ内容・大きさの回復を意味するわけではありません。**得点差だけでなく、どの課題がどのように変化したかを確認します。
下位項目から課題を具体化する
同じ合計点でも、困難な課題の組み合わせは異なります。
例えば、物品を大きくつかむ課題は行えても、小さな物品をつまむ課題が難しい場合があります。
合計点に加えて各項目の成績を確認することで、「何ができるようになったか」「どの動作が課題として残っているか」を把握しやすくなります。
点数と観察所見を併記する
臨床では、得点とともに次のような所見を残すと、介入につなげやすくなります。
- 物品を取り落とす場面
- つかむことと手放すことの違い
- 動作に時間がかかる場面
- 体幹や頭頸部の代償動作
- 疼痛や疲労、指示理解の影響
ARATの限界
重度例では床効果が生じる
物品の把持や操作が難しい場合、得点が低い範囲に集中します。これを床効果といいます。
そのため、随意運動がわずかに出現しても、課題の得点が変わらない場合があります。
軽度例では天井効果が生じる
多くの課題を遂行できる場合、満点付近に得点が集中します。これを天井効果といいます。
細かな巧緻性や速度に問題が残っていても、得点では違いを捉えにくくなる場合があります。床効果・天井効果の程度は、対象者の重症度や評価時期によって異なります。
日常生活での使用状況とは一致しない
ARATは、検査場面で課題を「できるか」を評価します。家庭や病棟で、麻痺側上肢をどの程度「使っているか」を直接測定する検査ではありません。
高得点でも、日常生活では非麻痺側上肢に頼っている場合があります。生活場面の観察や聞き取りを組み合わせて判断します。
機能回復と代償を区別しきれない
ARATは動作の質も採点に含みますが、得点の改善だけで、正常な運動の回復と代償による課題達成を明確に区別することは困難です。
「何点上がったか」とともに、「どのように動くようになったか」を観察することが重要です。
他の評価との組み合わせ
ARATで把握した課題を、運動機能や生活上の問題と結びつけるために、目的に応じて評価を組み合わせます。
| 確認したい内容 | 組み合わせる評価・観察の例 |
|---|---|
| 運動麻痺や分離運動の状態 | FMA上肢など |
| 課題が難しい背景 | 感覚、関節可動域、筋緊張、疼痛などの評価 |
| 日常生活での使用状況 | 食事・更衣などの観察、本人・家族への聞き取り |
| 動作方法の変化 | 到達・把持・手放し、代償動作の観察 |
まとめ
ARATは、物品の把握・握り・つまみ・粗大運動を通して、上肢の活動能力を評価する検査です。
合計点だけでなく、各課題の成績、動作の質、日常生活での使用状況を合わせて確認することが大切です。
標準化された手順で繰り返し評価し、「何ができるようになったか」を具体的に捉えることで、目標設定や介入内容の検討に役立ちます。
参考文献
- Yozbatiran N, Der-Yeghiaian L, Cramer SC. A standardized approach to performing the action research arm test. Neurorehabil Neural Repair. 2008;22(1):78–90.
PubMed / DOI - Nordin Å, Alt Murphy M, Danielsson A. Intra-rater and inter-rater reliability at the item level of the Action Research Arm Test for patients with stroke. J Rehabil Med. 2014;46(8):738–745.
論文本文 - University of Gothenburg. Action Research Arm Test.
評価の概要・関連資料
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