脳卒中後の上肢機能を評価するとき、検査場面で手が動かせるようになっていても、日常生活ではあまり使われていないことがあります。
このような「できること」と「実際にしていること」の違いを捉える評価が、**MAL(Motor Activity Log:モーター・アクティビティ・ログ)**です。
MALでは、本人への聞き取りを通して、日常生活における麻痺側上肢の使用頻度と動作の質を評価します。上肢機能の改善が生活に結びついているかを確認するうえで、役立つ評価方法です。pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
MALとは
MALは、生活場面で麻痺側上肢をどのくらい使い、どのくらいうまく使えているかを確認する、面接形式の評価です。
本人の回答を基本とし、評価者が具体的な動作や使用状況を確認しながら進めます。
評価するのは、次の2つです。
| 評価尺度 | 正式名称 | 評価する内容 |
|---|---|---|
| AOU | Amount of Use | 麻痺側上肢をどのくらい使っているか |
| QOM | Quality of Movement | 麻痺側上肢をどのくらいうまく使えているか |
AOUは「使用頻度」や「使用量」、QOMは「動作の質」と表現されます。
MALは、CI療法(Constraint-induced Movement Therapy)などにおいて、訓練場面以外での麻痺側上肢の使用状況を捉えるために用いられてきました。webview.isho.jp
MALの種類
MALには、14項目版や28項目版など、複数の版があります。
日本では、14のADL動作を対象とした日本語版MAL-14について、信頼性・妥当性が検討されています。
そのため、記録や記事では単に「MAL」と書くだけでなく、「日本語版MAL-14」のように、使用した版を明記することが大切です。webview.isho.jp
なお、2026年には日本語版Grade-4/5MALの信頼性・妥当性に関する報告もあります。「日本語版はMAL-14しかない」と断定せず、版ごとの対象や採点方法を確認する必要があります。jstage.jst.go.jp
以下では、主にMAL-14を念頭に、基本的な考え方を解説します。
どのような生活動作を評価するのか
MAL-14では、整容、食事、更衣、物品操作など、日常生活のさまざまな動作を扱います。
代表的な動作には、次のようなものがあります。
- 本や新聞を持つ
- タオルを使う
- グラスやカップを持ち上げる
- 歯を磨く
- 鍵でドアを開ける
- 衣服に腕を通す
- フォークやスプーンを使う
- 髪をとかす
- ボタンをとめる
単に動作が自立しているかではなく、その動作の中で麻痺側上肢を使っているかが評価の中心になります。uab.edu
例えば、食事が自立していても、非麻痺側上肢だけで食べている場合には、麻痺側上肢の使用が増えたとは判断できません。
MALの採点方法
AOUとQOMは、それぞれ基本的に0〜5点で評価します。高い点数ほど、使用頻度や動作の質が良好であることを示します。
以下は、採点の考え方を理解するための要約です。実際の評価では、使用する版の評価用紙と手引きに従ってください。
| 点数 | AOU:使用頻度の目安 | QOM:動作の質の目安 |
|---|---|---|
| 0 | 全く使っていない | 動作に使っていない |
| 1 | ごくまれに使う | 動かしているが、動作の役に立っていない |
| 2 | 時々使うが、多くは非麻痺側で行う | 多少役立つが、介助や大きな努力を要する |
| 3 | 発症前の半分程度使う | 動作に使えるが、遅さや努力を伴う |
| 4 | 発症前に近い頻度で使う | ほぼ良好だが、速さや正確さが劣る |
| 5 | 発症前と同程度に使う | 発症前と同程度に使える |
UABの原版手引きでは、状態を適切に表せる場合に0.5点刻みの回答も認めています。日本語版を含め、採点時には各版の規定を確認します。CIT Training MAL manual.doc
AOUは動作をした回数そのものではない
AOUは、麻痺側上肢を使った回数や時間を、機器で直接測定する指標ではありません。
本人の生活を振り返り、発症前の使用状況などを基準として回答する尺度です。そのため、「AOUが4点なので、一日の75%の時間で麻痺側上肢を使っている」といった解釈は避けます。
AOUとQOMは分けて算出する
AOUとQOMは、それぞれの項目得点から平均点を算出します。
AOU平均点=AOUの得点合計÷採点対象項目数
QOM平均点=QOMの得点合計÷採点対象項目数
両者を合算した1つの点数ではなく、別々に記録します。日本語版MAL-14でも、使用頻度と動作の質をそれぞれ評価します。webview.isho.jp
評価を行うときのポイント
「できるか」ではなく「実際に使ったか」を聞く
「コップを持てますか」と質問すると、検査場面での能力を答える可能性があります。
生活での使用状況を確認するには、例えば次のように尋ねます。
「最近の生活で、コップを持つときに麻痺側の手を使いましたか。どのように使っていましたか」
これは聞き取りの考え方を示す例です。正式な評価では、所定の質問手順を使用してください。
対象期間を明確にする
UABの手引きでは、初回評価などで過去1週間を振り返りますが、治療中や治療直後は実施状況により対象期間が異なります。
経過を比較するときは、いつからいつまでの生活について回答したかを記録しておくことが大切です。CIT Training MAL manual.doc
「使っていない理由」を確認する
同じ不使用でも、背景は異なります。
- 動かすことが難しい
- 痛みや疲労がある
- 落とすことが心配である
- 非麻痺側を使う習慣がある
- 家族や職員が代わりに行っている
- その動作をする機会がない
これらは、介入を考えるための確認事項です。
麻痺のために使えない場合と、生活上その動作を行わない場合を、一律に扱わないことが重要です。除外項目や分母の扱いは、使用する版の規定に従います。
MALの結果をどのように読むか
MALは、平均点だけでなく、動作ごとの回答を見ることで臨床に活用しやすくなります。
以下は、結果から介入を考える際の例です。
| 結果の傾向 | 確認したいこと | 介入を考える方向 |
|---|---|---|
| AOU・QOMともに低い | 運動障害、疼痛、生活環境、使用機会 | 使いやすい動作や補助的な役割を探す |
| AOUが低く、QOMが比較的高い | 使える場面でも使っていない理由 | 生活の中に使用機会を組み込む |
| AOUが比較的高く、QOMが低い | 遅さ、努力、介助、負担 | 動作方法や道具、課題の難易度を調整する |
| AOU・QOMともに改善 | どの動作で使い方が変わったか | 他の生活場面への広がりを確認する |
この表は解釈の例であり、点数による正式な重症度分類ではありません。
また、AOUが低いことだけで「学習性不使用」と判断することはできません。運動能力や感覚、疼痛、認知機能、生活環境などと合わせて考えます。
FMAやARATとの違い
MALは、他の上肢評価と組み合わせることで、役割が明確になります。
| 評価 | 主に確認すること |
|---|---|
| FMA上肢運動項目 | 運動麻痺や運動制御の状態 |
| ARAT | 決められた課題での物品操作能力 |
| MAL | 日常生活での麻痺側上肢の使用状況 |
例えば、FMAやARATが改善してもMALが変化しない場合には、獲得した能力を生活で使う機会が十分にあるかを確認します。
反対に、運動機能の変化が小さくても、生活動作を工夫することで麻痺側上肢の役割が増える可能性があります。
MALは、機能の回復と生活での活用をつなげて考えるための評価といえます。
MALの信頼性・妥当性
MAL-14の原著研究では、軽度から中等度の上肢麻痺を有する慢性期脳卒中者を対象として、信頼性や妥当性が検討されています。pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
日本語版の研究では、脳卒中片麻痺者28例を対象に、内的整合性や検者間信頼性が確認され、他の上肢機能評価との関連も示されています。
ただし、研究で確認された結果が、重度の失語症や認知機能障害などを含むすべての対象者に、そのまま当てはまるとは限りません。対象者の状態と回答の確かさを確認して使用します。webview.isho.jp
MALの限界と注意点
本人の記憶や判断の影響を受ける
MALは自己報告を基本とするため、生活場面を思い出す力や、自分の状態を捉える力の影響を受けます。
失語症、記憶障害、注意障害、病識低下などがある場合は、回答内容の理解や一貫性を確認する必要があります。
家族から情報を得た場合も、本人の回答と代理回答を混在させず、情報源を記録します。
生活環境によって使用機会が変わる
病院では行わない家事でも、自宅では毎日行うことがあります。また、介助者の関わり方によっても、麻痺側上肢を使う機会は変わります。
退院前後などで点数が変わった場合には、機能変化に加えて、生活環境や採点対象項目の変化を確認します。
動作の質を客観的に分析する検査ではない
QOMは本人が捉えた使いやすさや動作の質を反映します。関節運動、体幹による代償、実際の速度などを、評価者が直接測定する尺度ではありません。
必要に応じて、動作観察や動画、他の上肢機能評価などを併用します。
点数だけで重症度や改善を断定しない
MALの平均点を、独自の基準で「軽度・中等度・重度」に分けることは避けます。
また、点数の変化だけで改善を判断せず、使用した版、対象期間、採点項目、生活環境、本人にとっての変化を合わせて評価します。
記録の例
以下は記録例です。
日本語版MAL-14を実施。対象期間は過去1週間、本人への面接で評価した。AOU平均1.5点、QOM平均2.0点。タオル使用や更衣では麻痺側上肢を用いていたが、食事や飲水では非麻痺側を優先していた。本人から「落としそうで怖い」との発言があった。今後は安全に扱える物品と環境を設定し、生活場面での使用につなげる。
記録では、点数に加えて、使っている動作・使っていない理由・次の介入方針を残すと、他職種とも共有しやすくなります。
まとめ
MALは、脳卒中後の麻痺側上肢について、日常生活での使用頻度と動作の質を評価する面接形式の尺度です。
AOUとQOMを分けて評価することで、上肢機能の回復だけでは捉えにくい、生活での使用状況を確認できます。
点数だけに注目せず、「どの動作で使っているか」「なぜ使っていないか」を具体的に確認し、本人にとって意味のある生活動作へつなげることが大切です。
参考文献
- Uswatte G, et al. Reliability and validity of the upper-extremity Motor Activity Log-14 for measuring real-world arm use. Stroke. 2005;36(11):2493–2496.
PubMed - 高橋香代子ほか.新しい上肢運動機能評価法・日本語版Motor Activity Logの信頼性と妥当性の検討.作業療法.2009;28:628–636.
論文情報 - UAB CI Therapy Research Group. Motor Activity Log(MAL)Manual. 2011.
原版マニュアル(PDF)
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