高血圧のある患者さんの心電図に「左室肥大疑い」と記載されていたら、まずQRSの電位とST・T波を確認します。次に、過去の心電図や心エコー、血圧の推移、活動時の症状を照らし合わせます。PT・OT・STが、離床や歩行、ADL練習の前にどの情報を確認すればよいかを解説します。
なぜ高血圧で左室が肥大するのか
血圧が高い状態が長く続くと、左室は血液を送り出すたびに高い圧に抗して収縮します。こうした圧負荷に適応する過程で、左室壁が厚くなり、心筋の量が増えることがあります。これが左室肥大(left ventricular hypertrophy:LVH)です。左室肥大は、高血圧による臓器障害の一つです。[1]
左室が硬くなって拡張しにくくなると、駆出率(LVEF)が保たれていても、労作時息切れが生じることがあります。息切れの原因を考えるときは、心エコーの拡張機能や弁膜症の所見も確認します。大動脈弁狭窄症や肥大型心筋症でも左室壁が厚くなるため、高血圧の既往と合わせて画像所見や医師の評価を確認します。[1]
心電図で見るQRSの高電位
左室肥大では、右側胸部誘導のV1でS波が深く、左側胸部誘導のV5・V6でR波が高くなることがあります。電位基準では、基線からR波の頂点までの高さと、基線からS波の底までの深さを、どちらも正の値で測ります。次の基準値は標準感度10 mm/mVで記録した場合です。[2]
| 電位基準 | 測る波形 | 基準値 |
| Sokolow–Lyon | V1のS波の深さ+V5・V6のうち高い方のR波 | 35 mm以上 |
| Cornell電位基準 | V3のS波の深さ+aVLのR波の高さ | 男性28 mm超、女性20 mm超 |
たとえばV1のS波が16 mm、V5のR波が21 mm、V6のR波が18 mmなら、Sokolow–Lyonの合計は37 mmです。この例は電位基準を満たします。判定の際は記録感度と誘導名を確認します。

左室ストレインパターンの見方
左室肥大に伴い、QRSの後に続くST・T波にも変化が出ることがあります。典型的な左室ストレインパターンでは、Ⅰ・aVL・V5・V6などの側壁誘導で、高いR波に続いてSTが下向きに低下し、左右非対称の陰性T波へ移行します。ここでいうストレインは心電図上の再分極の所見です。心エコーでは、心筋の変形を表す指標にも同じ用語が使われます。[3]
ST低下や陰性T波は心筋虚血でもみられ、左室肥大と心筋虚血が重なることもあります。波形の形に加えて、いつからある所見か、どの誘導に出ているか、胸部症状や息切れを伴うかを確認します。新たなST・T変化や、胸部圧迫感、冷汗、急な息切れがあるときは、活動を見合わせるか中止し、院内の緊急対応手順に沿って速やかに報告します。[3・4]

左室肥大のストレインを読んだあとに、ST・T波の変化をどう整理するか復習できます →
心電図と心エコーを照らし合わせる
心電図は電気的な変化を、心エコーは心臓の形と機能を捉えます。心電図の電位基準は感度に限界があり、心エコーで左室肥大が確認されても電位基準を満たさないことがあります。逆に、体格や電極の位置などの影響で高電位にみえることもあります。[1・2]
| 確認する資料 | 見るポイント |
| 12誘導心電図 | 記録感度、QRS電位、ST・T波の変化、以前の心電図との差 |
| 心エコー | 左室壁厚、左室心筋重量係数(LVMI)、LVEF、拡張機能、弁膜症の有無 |
| 血圧と症状の記録 | 普段の血圧、体位変換・活動時の血圧と症状、降圧薬の変更時期 |
自動解析に「左室肥大疑い」とあれば、医師の読影所見と照らし合わせます。心エコー所見が見当たらない場合は、検査歴や追加評価の予定を診療チームに確認します。
LVEFや拡張機能を、心エコー報告書でどう読むかに進めます →
リハビリ前後に確認すること
| 場面 | 確認と対応 |
| 開始前 | 普段の血圧と当日の値、脈拍、胸部症状、息切れ、めまいを確認します。血圧が普段と大きく異なるときは、状態に応じて測定条件を確認して再測定し、症状と合わせて共有します。 |
| 離床や活動中 | 立位・歩行・更衣など、症状が出た動作を特定し、血圧、脈拍、息切れ、胸部症状、顔色を確認します。開始・中止の判断には個別指示と施設基準を用います。 |
| 活動後 | 症状が落ち着くまでの時間と、血圧・脈拍の回復を記録します。降圧薬変更後に立位でふらつく場合は、体位と症状出現時の測定値も共有します。 |
降圧治療の目標血圧と、当日のリハビリ開始・中止基準は用途が異なります。急性期、回復期、地域包括ケア、療養など、病棟を問わず、対象者の病態に応じた指示を確認します。[4・5]
症例で考える歩行中の息切れ
高血圧の既往がある患者さん。心電図には以前から左室高電位とV5・V6のST・T変化があり、心エコーでは左室壁肥厚とLVEF保持が記録されていました。今日は普段より短い距離で息切れが出ました。
まず歩行を止め、症状が出た距離と時点、血圧、脈拍、SpO₂、胸部症状の有無、休息後の回復を確認します。これらを普段の歩行時の反応と比較して報告し、練習を再開する前に診療チームの指示を確認します。以前からの心電図所見と、その日に新しく起きた症状を分けて伝えると、再評価につながります。
息切れがある場面で、心電図に加えてどの診療情報を確認するかを掘り下げます →
まとめ
高血圧のある患者さんでは、QRSの高電位と側壁誘導のST・T波に着目します。左室肥大の評価には心エコーを照らし合わせ、リハビリ場面では過去の心電図との差、血圧の推移、活動時症状を確認します。
参考資料
[2]Merck Manual Professional Edition. Electrocardiography. 左室肥大の電位基準
[3]Ogah OS, et al. Electrocardiographic left ventricular hypertrophy with strain pattern. 2008.
[4]JCS・JACR 心血管疾患リハビリテーションガイドライン 2021年改訂版
[5]日本高血圧学会 高血圧管理・治療ガイドライン2025 書誌情報
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