歩行練習中に「胸が締め付けられる」と訴えた患者さんの心電図に、ST低下がありました。この所見を読むとき、まず確かめたいのは「胸の症状と心電図の変化が同じ時間帯に起きたか」です。症状が消えた後の心電図では変化が見えにくいこともあります。
この記事では、狭心症と心筋梗塞でみられる心電図の変化を整理し、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が診療録で確認する情報と、離床や練習中に胸部症状が出たときの対応を解説します。
狭心症と心筋梗塞の違い
心筋虚血とは、心筋が必要とする酸素に対して、冠動脈からの供給が不足した状態です。狭心症では心筋虚血による症状が起こります。心筋梗塞では、虚血によって心筋が傷害され、壊死に至ります。新たに安静時にも症状が出る、以前より軽い動作で出る、発作が増えるといった変化があれば、急性冠症候群(ACS)を疑う手がかりになります。ACSには不安定狭心症と急性心筋梗塞が含まれます。[1–3]
| 病態 | 心電図でみられうる所見 | 照合する情報 |
| 安定した労作性狭心症 | 労作中に一過性のST低下。安静時は正常なことがある。 | 症状が出た動作や負荷、休息後の経過 |
| 冠攣縮性狭心症 | 発作中に一過性のST上昇またはST低下。 | 安静時の発作、発作時と消失後の波形 |
| 不安定狭心症 | ST低下やT波陰転化など。明らかな変化がない場合もある。 | 症状の新規出現・増悪、経時的な心電図とトロポニン |
| 急性心筋梗塞 | STEMIでは特徴的なST上昇など。NSTEMIではST低下・T波変化や、明らかな変化がない場合もある。 | 症状、経時的な心電図とトロポニン、画像や冠動脈所見 |
| 陳旧性心筋梗塞 | 病的Q波が残ることがある。 | 発症・治療歴、過去の波形、心エコーの壁運動 |
STEMIはST上昇型心筋梗塞、NSTEMIは非ST上昇型心筋梗塞です。波形には重なりがあるため、症状や検査結果と照合します。[1–4]
心電図で確認する三つのポイント
1 ST・T波の変化がどの誘導にあるか
水平型・下降型のST低下や、新たなT波の陰転化は、虚血を考える手がかりになります。左室肥大や脚ブロックなどでもST・T波は変化するため、以前の波形と比べます。症状とともに、同じ領域をみる隣接誘導で新たなST上昇がみられるときは、急性冠動脈閉塞を疑い、迅速な評価が必要です。ST上昇がなくても急性心筋梗塞は起こります。[1, 3]

図は、心電図の1拍分を使って、ST部分の高さとT波の向きを比較した模式図です。特定の誘導を示したものではありません。実際の12誘導心電図では、波形の形に加えて、どの誘導に変化が現れているかを確認します。たとえば、Ⅱ・Ⅲ・aVFは心臓の下壁側を見る誘導です。これらの誘導で新たなST上昇がみられる場合は、下壁の急性虚血を疑う手がかりになります。
例えば、II・III・aVFのST上昇は下壁の急性虚血を疑う手がかりです。V1〜V3のST低下は、後壁側のST上昇を反対側から見ている場合があります。医療チームは所見に応じて、後壁誘導(V7〜V9)などを追加して評価します。[1]
2 症状と記録時刻が合っているか
安定した労作性狭心症では、歩行や階段などで症状が出て、休息で軽くなることがあります。冠攣縮性狭心症では、夜間や早朝の安静時にも発作が起こり、発作中にみられたST変化が消失後には戻ることがあります。症状の出現時刻、心電図の記録時刻、症状が軽くなった時刻を並べると、波形の変化を追いやすくなります。[3, 4]
急性冠症候群が疑われるときは、初回の12誘導心電図に明らかな変化がなくても、症状や経過に応じて12誘導心電図を繰り返し評価します。ベッドサイドのモニターで大きな変化が見えない場合も、新たな胸部症状や随伴症状は速やかに共有します。[1]
3 病的Q波が以前からあったか
病的Q波は心筋梗塞後に残ることがあり、過去の梗塞を考える手がかりです。急性期にも出現しうるため、Q波だけで発症時期を決めることはできません。以前の心電図、梗塞や冠動脈治療の記録、心エコーの局所壁運動を照合します。陳旧性心筋梗塞がある患者さんでも、新しい胸部症状が出たときは、その症状を起点に評価します。[1, 2]
トロポニンは採血時刻と推移を確認する
心筋トロポニンは心筋傷害の指標です。一般的な急性心筋梗塞の診断では、測定法ごとの基準上限(99パーセンタイル)を超える値を少なくとも1回認め、値の上昇または下降に加えて、急性虚血を示す症状、心電図変化、画像所見などの根拠を確認します。[1, 2]
発症直後には初回値が基準範囲内のことがあります。急性虚血が疑われ、経時的な評価で急性心筋傷害を示す所見がなければ、不安定狭心症が鑑別に挙がります。心不全や腎機能障害などでもトロポニンが高いことがあります。診療録では「陽性・陰性」に加え、症状から採血までの時間、再検での変化、医師の評価を確認します。[1, 2]
リハビリ中に胸部症状が出たときの対応
歩行、移乗、ADL練習などで新たな胸部圧迫感や締め付けが出た場合は、練習を中止し、転倒を防いで安静を確保します。胸痛が目立たず、急な息切れ、冷汗、悪心、顔色不良などが前面に出ることもあります。意識や呼吸、循環の状態を確認し、院内の手順に従って看護師・医師に速やかに連絡します。状態が不安定であれば院内の緊急対応を要請し、測定や記録の完了を待たずに応援を呼びます。[1, 5]
症状が軽くなっても、発症時刻と経過を伝え、当日の練習再開は医師の評価と指示を確認して判断します。
報告に含める情報
- いつ、何をしていたか。発症時刻と、歩行距離や動作などの負荷。
- どんな症状か。胸部症状の性質・部位・放散、息切れや冷汗などの随伴症状。
- 中止後にどう変化したか。症状が続いているか、軽くなった時刻、測定できた血圧・脈拍・SpO₂。
- 波形を記録できた場合は、記録時刻と誘導。以前の波形との違いが分かれば併せて報告する。
歩行練習中の報告例
「10時12分、歩行練習で約20m歩いたところで、胸の中央が締め付けられると訴え、冷汗が出ました。歩行を中止して座位で休んでいます。10時14分の血圧は108/68 mmHg、脈拍は96回/分で、胸の症状は続いています。至急、評価をお願いします」
関連ページ
ST上昇・ST低下とT波の変化を確認する
心エコーで壁運動を確認する
異常波形の見方(ST・T波の変化)/ 採血結果の見方 / 心電図所見を踏まえたリハビリでの対応
参考文献
[1] ACC/AHAほか 急性冠症候群の管理ガイドライン(2025)
[4] JCS/CVIT/JCC 冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害のガイドライン フォーカスアップデート(2023)
[5] JCS/JACR 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2021年改訂版)
お問い合わせ
記事の内容についてお気づきの点やご質問がありましたら、お問い合わせフォームよりご連絡ください。

コメント