リハビリ前に心拍数が普段より低い、心電図の報告に「QTc延長」とある。そんなときは、薬剤の開始・増減と心電図を記録した時刻を並べてみましょう。変更前の心電図、併用薬、採血結果、症状を照らし合わせると、何を医師・看護師・薬剤師に共有すべきか整理できます。
薬剤で変わりうる心電図所見
薬剤は、心拍数や心臓内の電気の伝わり方、心室の再分極に影響します。利尿薬のように、電解質の変化を介して不整脈のリスクに関わる薬剤もあります。[1、2、4]
| 見るところ | 薬剤の例 | 心電図と一緒に見ること |
| 心拍数・PR間隔 | β遮断薬、ベラパミル、ジルチアゼム、ジゴキシン | 徐脈や房室伝導の遅れ。脈が遅くなる薬の併用、血圧、めまいを確認。 |
| QRS幅 | フレカイニドなど一部の抗不整脈薬 | 心室内伝導の遅れによるQRS幅の増大。以前の12誘導と比較。 |
| QTc | ソタロール、アミオダロン、一部の抗菌薬や抗精神病薬 | QTcの変化量、徐脈、K・Mg、QT延長に関わる併用薬を確認。 |
| ST・T波 | ジゴキシン | くぼんだ形のST低下がみられることがある。新たな胸部症状や波形変化も確認。 |
| 電解質を介した変化 | ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬 | 低K・低Mgを伴う場合がある。増量前後の採血と腎機能を比較。 |
徐脈と運動時の心拍応答
β遮断薬の開始や増量後は、安静時心拍数が低下し、運動時も心拍数が上がりにくくなることがあります。同じ歩行速度で心拍数が以前より低くても、負荷を上げる前に、処方変更と運動指示を確認します。運動強度は、指示された負荷量を基準に、血圧反応、症状、自覚的運動強度(Borg RPE)も合わせて見ます。[1、2、3]
Borg RPEスケールで運動のきつさを確認する →
QTc延長とトルサード・ド・ポワント
QT間隔は、QRSの始まりからT波の終わりまでの時間です。心拍数の影響を補正した値をQTcと呼びます。薬剤によって心室の再分極が遅れると、QTcが延長することがあります。そこに低K・低Mg、徐脈、QT延長に関わる薬剤の併用などが重なると、トルサード・ド・ポワント(TdP)という多形性心室頻拍のリスクが高まります。[1、2、4]
低カリウム・低マグネシウム血症と心電図について確認する →
入院中にQT延長リスクのある薬剤を投与した際は、QTcが500 msを超えた場合や投与前より60 ms以上延長した場合が、速やかな評価を要する目安です。リハビリの実施可否は、症状や心電図所見、医師の指示、院内基準を合わせて判断します。QRS幅が広い場合はQTも長く測定されうるため、測定条件や補正式を含めて判読を確認します。[4]
自動計測値を比較するとき
心拍数の違い、心房細動による拍ごとのばらつき、T波の終点の見えにくさは、QTcの比較に影響します。モニターの自動表示で延長が疑われたら、12誘導心電図の判読結果を確認します。前回値と比較するときは、補正式や測定誘導がそろっているかも確認します。[4]
ジゴキシン使用中のST低下
ジゴキシン使用中は、治療用量でもくぼんだ形のST低下がみられることがあります。この波形から判断できる範囲は限られます。新たな胸痛やST変化があれば虚血も考えて速やかに共有し、徐脈や新たな不整脈に食欲低下・悪心などが重なる場合は、中毒の可能性も含めて評価を依頼します。比較する情報は、以前の心電図、腎機能、電解質、必要に応じて採血時刻を踏まえた血中ジゴキシン濃度です。[1、3]

胸痛があるときのST・T波の見方を確認する →
診療録で確認する順番
薬歴
開始・中止・増減の日付と実際の投与時刻を確認します。定期薬に加えて頓用薬、注射薬、他院処方も確認します。
心電図
変更前後の12誘導心電図を比べ、心拍数、調律、PR間隔、QRS幅、QTc、ST・T波のうち何が変わったかを確認します。
採血と症状
K・Mg、必要に応じてCa、腎機能と採血時刻を確認します。症状が出た姿勢や動作、血圧、脈拍を記録します。
リハビリでの対応
開始前に新しい変化を見つけたとき
薬剤変更後に新たな徐脈、伝導障害、著明なQTc延長が記録されている場合は、離床や運動の開始前に、既に評価されている所見か、当日の実施条件が示されているかを確認します。気になる所見は、平常時との違いと症状の有無を添えて共有します。[1、3、4]
実施中に症状が出たとき
めまい、失神しそうな感覚、胸痛、急な息切れ、動悸などが出たら、いったん動作を中止し、転倒を防いで血圧・脈拍・意識状態を確認します。意識消失、循環不安定、持続する心室頻拍が疑われる場合は院内の緊急対応手順に従います。記録できる場合は、症状が出た時刻と動作、そのときの心電図を残します。[2、3]
報告の例
「昨日、β遮断薬が増量されました。今朝の安静時脈拍は48回/分で、昨日は62回/分でした。端座位でめまいがあり、血圧は臥位112/68 mmHgから座位92/58 mmHgになりました。立位練習は見合わせています。本日の離床条件を確認させてください。」
まとめ
薬剤の影響が疑われるときは、処方変更と波形変化の時間関係を確認し、併用薬、電解質・腎機能、症状を照合します。リハビリでは、どの動作で症状が出たか、そのときの血圧・脈拍・心電図を共有すると、当日の離床や運動の判断につながります。
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参考資料
[2]ESCガイドライン 心室性不整脈と心臓突然死の予防(2022)
[3]JCS/JACR 心血管疾患におけるリハビリテーション(2021年改訂版)
[4]AHA/ACCF科学的声明 院内でのTdP予防(2010)
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