痛みは、身体から届く刺激がそのまま一定の強さで感じられるものではありません。
末梢神経・脊髄・脳での情報処理に加え、注意や感情、過去の経験なども痛みの体験に関わります。そのため、組織の損傷の程度と痛みの強さが、必ずしも一致するわけではありません。
このページでは、痛みが伝わる基本的な流れを確認し、ゲートコントロール理論・下降性疼痛調節・末梢・中枢性感作・痛覚変調性疼痛の4つのテーマへつなげて解説します。
痛みが伝わる基本的な仕組み
身体に加わった、組織を傷つける、または傷つけるおそれのある刺激を神経系が検出・処理する働きを「侵害受容」といいます。
身体への刺激から痛みの体験に至るまでには、主に次の過程が関わります。
| 過程 | 主な内容 |
|---|---|
| 刺激の検出 | 侵害受容器が、有害な機械的・熱的・化学的刺激を検出する |
| 情報の伝達 | 末梢神経から脊髄を経て、脳へ情報が伝わる |
| 情報の調節 | 脊髄や脳の働きによって、情報の伝達が抑制・促進される |
| 痛みの体験 | 感覚的な側面と、不快感などの情動的な側面を伴う痛みとして体験される |
ただし、これは基本的な流れを簡略化したものです。実際には、末梢から脳へ向かう情報と、脳から脊髄へ向かう調節が相互に関わっています。
また、侵害受容と痛みは同じものではありません。 神経の活動だけから、その人が感じている痛みの有無や強さを決めることはできません。
痛みの生理学を理解する4つのテーマ
1.ゲートコントロール理論|脊髄で情報が調節される仕組み
ゲートコントロール理論は、脊髄で感覚情報の伝達が調節されるという考え方を示した理論です。
例えば、身体をぶつけたときに、その周囲をさすると痛みが和らぐことがあります。触覚などの入力が、脊髄での侵害受容情報の伝達に影響することが、その説明の一つになります。
1965年に提唱された理論であり、その後、神経回路の理解は修正・発展してきました。現在も、痛みの調節を理解するための基礎として重要です。ただし、すべての痛みや治療効果を、この理論だけで説明することはできません。
ゲートコントロール理論の記事では、ゲートの考え方、神経線維の役割、臨床での捉え方を解説します。
2.下降性疼痛調節|脳から痛みの伝達に働きかける仕組み
下降性疼痛調節とは、脳から脊髄へ向かう経路を介して、侵害受容情報の伝達を調節する仕組みです。
痛みを抑える働きは「下降性疼痛抑制」と呼ばれます。一方で、下降性の調節には、情報の伝達を促進する働きもあります。
つまり、下降性疼痛調節は、痛みを弱める方向にも、強める方向にも関わります。注意・期待・感情などが痛みに影響する背景にも、こうした仕組みが関係しています。
下降性疼痛調節の記事では、下降性抑制と促進の違い、関係する脳・脳幹の働き、リハビリテーションとの関連を解説します。
3.末梢・中枢性感作|刺激に対して過敏になる仕組み
感作とは、侵害受容に関わる神経の反応性が高まることをいいます。生じる部位によって、末梢性感作と中枢性感作に分けられます。
| 種類 | 主に変化する部位 | 基本的な考え方 |
|---|---|---|
| 末梢性感作 | 末梢の侵害受容器・神経 | 刺激に対する反応が強まり、反応する閾値が低下する |
| 中枢性感作 | 脊髄や脳などの中枢神経系 | 通常の入力や弱い入力に対する、侵害受容ニューロンの反応性が高まる |
感作は、痛みを起こす刺激を通常より強く痛く感じる「痛覚過敏」や、通常は痛くない刺激で痛みを感じる「アロディニア」に関わることがあります。ただし、これらの症状だけで、どの部位にどのような感作があるかを断定することはできません。
子記事では、末梢性感作と中枢性感作の違い、痛覚過敏・アロディニアとの関係、評価時の注意点を解説します。
4.痛覚変調性疼痛|侵害受容の変化に関連する痛み
痛覚変調性疼痛は、侵害受容の変化によって生じる痛みを表す用語です。
痛みを説明する明確な組織損傷やその脅威、または体性感覚神経系の病変・疾患の証拠がない場合に用いられます。侵害受容性疼痛や神経障害性疼痛と併存することもあります。
ここまでの3つが主に神経の仕組みや理論を扱うのに対して、痛覚変調性疼痛は、痛みを機序から捉えるための用語です。
「中枢性感作」と同じ意味ではなく、「画像検査で異常が見つからない痛み」を一律に指すものでもありません。 また、心理的な要因だけで説明される痛みという意味でもありません。
痛覚変調性疼痛の記事では、定義、ほかの痛みとの違い、中枢性感作との関係、臨床での捉え方を解説します。
リハビリテーションで痛みの生理学を学ぶ意味
痛みの生理学は、患者さんの痛みを一つの原因に決めつけず、評価を進めるための土台になります。
臨床では、次の情報を組み合わせて捉えることが大切です。
- 組織損傷や炎症、神経の病変・疾患の有無
- 痛みの部位、広がり、強さ、経過
- 動作や負荷、触覚などの刺激と痛みの関係
- 睡眠、疲労、不安、生活背景
- 活動や参加に対する影響
「痛みが強いから損傷も大きい」「長引いているから中枢性感作がある」と単純に結びつけず、患者さんの訴えと診察・検査所見を照らし合わせて考えます。
まとめ
痛みを理解するには、末梢から脳へ情報が伝わる過程に加え、情報が調節される仕組みと、神経の反応性が変化する仕組みを知ることが大切です。
まずはゲートコントロール理論と下降性疼痛調節で「痛みの調節」を学び、末梢・中枢性感作で「過敏になる仕組み」を確認すると、痛覚変調性疼痛の理解にもつながります。
参考文献
- International Association for the Study of Pain. IASP Terminology.
- Melzack R, Wall PD. Pain mechanisms: a new theory. Science. 1965;150(3699):971–979. doi:10.1126/science.150.3699.971.
- Millan MJ. Descending control of pain. Prog Neurobiol. 2002;66(6):355–474. PubMed.
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